世界でいちばん、君に届かない

 誰かに頼まれたのだろうか。そう考えたとき、久世くんがこちらへ向き直った。

「……好きだ」

 一瞬、意味がわからなかった。

「…………え?」

「小宮山が、好きだ」

 今度は、はっきり聞こえた。

 枝の影が床の上を揺れていた。遠くでは相変わらず掛け声が響いているのに、私は彼から目を離せなかった。

「……えっ、ええっ!?」

 思わず大きな声が出た。

「な、何? どういうこと!?」

「……そのままの意味だ」

「そのままって……えっと、私のこと?」

「他に誰がいるんだよ」

「そ、そうだよね!」

 頭が追いつかない。久世くんが私を? いつから? どうして? いや、どうしてって聞くのも失礼だよね!?

 彼は急かさずに待っていた。ふと見ると、耳のあたりが赤い。久世くんも緊張しているのだ。そのことに気づくと、少しだけ息が詰まった。

「……前から、好きだった」

 久世くんは、言葉をひとつずつ選ぶように続けた。

「もっと話したい。……お前のこと、もっと知りたい」

 飾らない言葉だった。だからこそ、一つひとつが胸に残る。

「……久世くん」

「返事は、今じゃなくていい」

 私が何か言うより早く、彼は続けた。

「急に言われても、困るだろ」

「……うん。正直、びっくりしてる」

「だろうな」

 わずかに口元が緩む。初めて見るような、柔らかい笑顔だった。

「……知ってほしかっただけだ」

 自分の気持ちを伝えるために、彼は私を呼び止めたのだ。

「……ありがとう」

 ようやく、それだけ言えた。

 久世くんは頷いた。

「……じゃあ、また明日」

「あっ、うん。また明日!」

 彼はそれ以上何も言わず、廊下の向こうへ歩いていった。

 私は、その背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた。