極東4th

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「おかあ…さん…」

 きゅうっと。

 赤ん坊のような力が、真理の手を握り返してきた。

 お母さん?

 不本意な呼ばれ方だ。

 まだ、完全に戻っていない意識から漏れた、うわごとレベルの言葉。

 真理は、ガラス玉のような、開いたままの目を見た後。

 枕もとの写真を見た。

 早紀によく似た女性が、笑っている。

 早紀の母親が、カシュメルの血を引く魔女のはず。

 親子二代で、魔女らしくない魔女だったようだ。

 握られた手は、乳を吸う赤子のように、真理から魔力を吸い上げていく。

 ふぅ。

 魔力を失う倦怠感を覚えながら、真理は小さく息を吐いた。

 鎧を得てからというもの、早紀には本当に振り回される。

 予想もしていなかった力を持っているかと思えば、たったひとつの傷で魔力を枯渇させる。

 鎧としてリンクしていればうるさいし、痛みを怖がって、彼の許可なくステルスに逃げる。

 おかげで、真理個人としては、まったくの戦果を上げられていなかった。

 ただ──数だけならば。

 昨日、彼が墜とした数は2。

 向こうのトップが、どうやら出撃してなかったので、2/3という立派な数字になる。

 この数字は、おそらくイデルグによって報告されているだろう。

 カシュメル家の初陣にしては、十分すぎる数字ではあった。

 本当に、不本意だが。

 多くの鎧を受け継ぐ魔族が、憑き魔女を持たない理由も、早紀を見ているとよく分かる。

 非常に──面倒だ。

 思えば。

 トゥーイの連れていた、零子と呼ばれる憑き魔女も、ガラス玉のような目をしていた。

 いまの早紀よりは、マシな目だが。

 彼女もまた、傷により魔力を失いかけているのだろうか。

 不本意なまま、真理が思考を巡らせていると。

「あ…」

 小さな、女の声。

 早紀のガラス玉に──光が入っていた。