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朝。
早紀は、目を覚ました。
いつものように起き上がり、ベッドの上に座って母親の写真を見る。
「おかあさん…おは……」
そこで──彼女のネジが切れた。
眠りの世界を黒とたとえるなら、いまの早紀は白い世界にいて。
何かを考えたいとか、動きたいとか。
「したい」という欲求が、まったく失われてしまっていた。
ただ、自分の肉体が存在するだけで、それ以外は全て白で塗りつぶされていたのだ。
そんな中にあって。
早紀は、足だけがほのかに温かいような冷たいような、そんな感触を味わっていた。
不定期に触れる、まとわりつくような風ではない何か。
ちゃぷん。
一度だけ──音がした。
それが何なのか、考えることは出来ない。
早紀は、そのぬるい何かに足を浸したまま、白い世界で立ち尽くすだけなのだ。
ふと。
自分の、右手が見えた。
だらりと下ろしたままの右手が見えた、ということは。
早紀は、首を動かしていたのだ。
右手が。
とても。
あたたかい。
足のぬるさなど忘れてしまうほど、自分の右手が熱を持っている。
その熱が、右手から少しずつ腕へ肩へと上がってくるのだ。
とてもとても、冷えていたのが分かる。
この温度を、ずっと自分が心待ちにしていたことも。
白い世界をも、右手の熱は溶かし始める。
自分を。
助け出してくれる温度。
早紀は、温かい右手を動かしてみた。
「おかあ…さん…」
何かを──握り返していた。
朝。
早紀は、目を覚ました。
いつものように起き上がり、ベッドの上に座って母親の写真を見る。
「おかあさん…おは……」
そこで──彼女のネジが切れた。
眠りの世界を黒とたとえるなら、いまの早紀は白い世界にいて。
何かを考えたいとか、動きたいとか。
「したい」という欲求が、まったく失われてしまっていた。
ただ、自分の肉体が存在するだけで、それ以外は全て白で塗りつぶされていたのだ。
そんな中にあって。
早紀は、足だけがほのかに温かいような冷たいような、そんな感触を味わっていた。
不定期に触れる、まとわりつくような風ではない何か。
ちゃぷん。
一度だけ──音がした。
それが何なのか、考えることは出来ない。
早紀は、そのぬるい何かに足を浸したまま、白い世界で立ち尽くすだけなのだ。
ふと。
自分の、右手が見えた。
だらりと下ろしたままの右手が見えた、ということは。
早紀は、首を動かしていたのだ。
右手が。
とても。
あたたかい。
足のぬるさなど忘れてしまうほど、自分の右手が熱を持っている。
その熱が、右手から少しずつ腕へ肩へと上がってくるのだ。
とてもとても、冷えていたのが分かる。
この温度を、ずっと自分が心待ちにしていたことも。
白い世界をも、右手の熱は溶かし始める。
自分を。
助け出してくれる温度。
早紀は、温かい右手を動かしてみた。
「おかあ…さん…」
何かを──握り返していた。


