極東4th

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 ガシャンッ。

 鎧から解放された早紀は、前に倒れるように膝をついた。

 痛いーーー!!!

 胸が、焼けるように熱く痛いままだったのだ。

 窓が割れ、風通しのよくなった真理の部屋で、彼女は初陣の代償と戦わなければならなかった。

「今夜は…」

 頭の上の方で、真理が不機嫌な声で、何かを言おうとしている。

 しかし、いまの早紀には聞き取れない。

 パジャマの胸が、血で濡れていないのが不思議なほどだ。

「…見せてみろ」

 言いかけた言葉をやめ、真理の声が近づいてくる。

 無造作に伸ばされた両手が、彼女のパジャマの前を、ぐいと開いたのだ。

 夜中に、男の部屋で、あられもなく──なんてことを考える余裕など、早紀にはない。

 だが、自分の傷口を反射的に見てしまった。

 金色のアザが、胸の上を左右に走っている。

 真理も、傷に驚いたようだ。

 彼は、その傷口に手を伸ばしかける。

 傷に触られるなんて、痛いに決まっている。

 早紀は。びくっと身構えたが。

 真理も同じように、びくっと手を引っ込めた。

 熱いものに手を近づけた時の、反射行動に見えた。

 ああ、そうか。

 分かった。

 真理も、この傷には触れないのだろう。

 金色の敵につけられた傷だから、きっと魔族にはとても悪いものに違いない。

 ということは、痛い上に──誰も早紀を助けてはくれないのだ。

 涙が出そうだった。

「調べておく…部屋に戻れるか?」

 真理の声は、彼女を更に孤独な気分に叩き落した。

 焼ける胸を、パジャマで隠すようにして、ふらふらと立ち上がる。

 いまもし、誰か頼れる人がいたならば、彼女はきっとへたりこんだままだったろう。

 だが、そんな人などどこにもいやしない。

 いないから、立たなければならない。

 おかあさん、おかあさん。

 生きている真理より、死んだ母の写真の前で──泣きたかった。