「おはよう、真理」
従兄の修平は、真理には怯まない。
にこやかに、朝の挨拶を投げ掛ける。
真理は、それを微かに目で確認しただけだ。
相変わらずの氷の王子っぷりである。
「そう言えば、真理は明日誕生日だろう?」
視線だけの応対に怯むことなく、修平は話を続ける。
ああ、そうか。
同居していながらも遠い存在の真理の誕生日は、やはり遠い存在だ。
覚えているのに、意識していない。
11月13日。
それが、明日。
真理は、17歳になるのだ。
そんな自分の誕生日の話だというのに、真理の冷ややかな視線は、早紀に向くではないか。
なぜ、私を見るのっ!?
思わず、早紀はキョロキョロしてしまった。
自分を見られる理由なんて、ないと思っていたのだ。
そして、そんな無駄なことを、真理はしない。
「お前…」
しかも。
よりにもよって、今日はお言葉つきだ。
尚更、早紀はどぎまぎする。
乙女ちっくな、どぎまぎではない。
学校で、先生にいきなり指名された時の感覚。
しかし。
やはり、相手は真理だった。
「お前、まだここにいるのか」
早紀の心を凍土に叩きつける、彼らしい言葉。
十年以上の月日で、早紀が獲得したもの。
それは。
「はあ…まあ」
図太さだった。


