極東4th

「蝕が…終わるぞ、卿ら」

 トゥーイと真理の間の空気を、ベルガーが一言で断つ。

 非常によろしくない気分のまま、しかし真理は、空蝕の閉じゆく様へと視線を馳せた。

 初めての蝕と、その蝕の終わりなのだ。

 横向きにある瞼が、ゆっくりと閉じていくような様を、じっと見つめた。

 その瞼が、もとの空に触れようとした時。

 微かなきらめきを見せる。

 ああ。

 これが──涙か。

「染めるぞ」

 イデルグが、下から何かを捧げ持つかのように、両手を差し出す。

 鎧から溢れる魔気とはまた違う、明らかに故意に作り出す魔気を、その両手に乗せるのだ。

 ベルガーは、恭しく宙で片膝をつくようにして、手から魔気を生み出す。

 トゥーイも、両手に気を溢れさせ始めた。

 初めての戦い。

 初めての勝利。

 そして、初めての──儀式。

 両手を、ゆっくりと前に出す。

 全身を血液のように流れる魔力を、両手に集めるのだ。

 魔力を皮膚のすぐ内側に集めると、立ちのぼるように魔気が溢れてくる。

 こうして、涙を魔族の色に染めるのだ。

 黒く、より黒く。

 そうすることで、この蝕の持つエネルギーは、魔族のものとして極東エリアに降り注ぐ。

『地』を支配するに相応しい種族を決めるための、エゴイスティックなマーキングだ。

 魔のエネルギーを帯びた涙を浴びると、無傷では済まない他の種族は、その間、隠遁を余儀なくされる。

 魔族たちの学校や屋敷などは、敵の涙の影響を受けないよう『傘』をかけてある。

 その『傘』の範囲以外、自由に動き回れないのだ。

 出られるのは、鎧持ちくらいか。

「どうした、ベルガー卿…」

 完全に黒に染まった涙が、蝕の終わりからこぼれ落ちる瞬間。

 イデルグが、隣の男を気にした。

 羽の鎧を持つ男が、一瞬辺りを気にする動きをしたからだ。

「潮の…否…気のせいであろう」

 ベルガーは、すくっと立ち上がるや兜を左右に振って見せた。

 こうして。

 真理の初陣は──終わった。