うーん。

 早紀は、授業も上の空でいろいろ考え込んでいた。

 鎧の男が教えてくれる情報は、1つずつであっても、十分彼女の思考のキャパを超えるものばかりだ。

 自分は魔女で、二度死んで、鎧になって、真理と同化して、空を飛んで、怖い人たちと対面して。

 それでもってそれでもって。

 あの能力とやらを出したのが、早紀だというのだ。

 そんなすごい能力なんて、本当に持ってるのかなあ。

 考え込んでいるだけで、あっという間に授業が終わり放課後で。

 とりあえず、言われたとおりのことを、ごくんと飲み込むしか、早紀には出来なかった。

 真理は、懇切丁寧に早紀に教えてはくれないし、鎧の人といられる時間は、意外と短かった。

 夢の世界では、時間の流れが随分違うように感じるのだ。

 うーん。

 伸びをしたい気持ちをぐっとこらえて、早紀は身体を縮こまらせたまま、教室から出ていこうとした。

 その時。

「…捕捉しました」

 目の前に──誰かが立った。

 下を向いていた早紀に見えたのは、真っ黒いスカート。

 声も服も、間違いなく女生徒のものだ。

 ゆっくり。

 いやな予感がしながら、ゆっくりゆっくり、早紀は顔を上げていった。

 黒いガラス玉のような眼。

 青いほど白い肌に際立つ赤い唇。

 ウェーブを帯びた長い黒髪。

 綺麗な女性だが、知らない人だった。

 同じ学年でもない。

 だが。

 だが、ただひとつだけ、早紀には理解できた。

 彼女の額のまんなか。

 自分と同じ、しるしがあったのだ。

 この人!

「ようやく捕まったか」

 その彼女の後ろから現れたのは──またも、知らない男だった。