極東4th

「こんにちは」

 病院の上空から、早紀は声をかけた。

 身体は、ホウキの上。

 魔女らしい視点から、伊瀬を見下ろすことになるとは、思ってもいなかった。

 不思議な感覚だ。

「君は…あの時と同じ君なのか?」

 静かに。

 色々と思うところはあるだろうが、つとめて静かに伊瀬は空に向かって声をかける。

「違うわよ」

 唇を乗っ取ったのは、貴沙。

 挑発的な声をあげながら、ホウキで空中に弧を描いた。

「…やはり、昨日の夜も…『君たち』だったんだな」

「そうよ、『あたしたち』よ」

 ゆっくり振り出される太刀と、鋭い短剣のようなやりとり。

「ごめんなさい…」

 そのやりとりの中に、早紀は木の棒で割り込むのだ。

「ごめんなさい…私は魔族なんです。魔女なんです」

 そんな当たり前のことだと分かっていても、言わずにはいられなかった。

 彼は、とてもいい人だ。

 殺されかかりはしたが、その時でさえも伊瀬は優しかった。

 ごめんなさいは──その優しい男と、完全に決別する言葉。

 早紀は魔女で、そしてこれからも魔女であり続けると、覚悟が決まってしまったのである。

 だから。

「……わかったわよ」

 面倒臭そうに、貴沙がため息を吐きだす。

「もう二度と、あんたには会わないわ」

 貴沙は、ホウキの舳先を軽く持ち上げる。

 上昇するサインだ。

「次に会うとしたら…殺し合いの場だけ、よ」

 見上げる伊瀬。

「その前に…葵に何かしたら、あたしがあんたを殺しに行くわ」

 捨てゼリフの直後、ホウキは弾丸のように上空へと飛翔する。

 風が、顔に痛いほど。


「あーもう…鬱陶しい! 泣かないでよ!」


 貴沙の怒った声が、早紀のせいで涙声なのが、ちょっとだけ笑えた。