極東4th

「貴沙!」

 病院のベッドの上。

 窓からホウキにまたがって入ってきた早紀に向かって、彼女は迷わずにそう呼びかけたのだ。

 ああ。

 花のような、あたたかい笑顔。

 早紀の持っていた、あの写真と同じ笑顔だ。

「ふ…っけたわねー!」

 それに感動する早紀をよそに、貴沙はやっぱり貴沙だった。

 あけすけで口さがない。

 だが、それに葵が笑い出す。

「ああ、貴沙よ…本当に貴沙…間違いないわ」

 ホウキを置いて、ベッドに横座りする彼女の首に、かじりつきそうな勢いだった。

 だが。

 次の瞬間、葵は激しく咳き込んだ。

「ああ…忘れてた」

 貴沙は、天をあおぎながらベッドから立ち上がる。

「無事戻れたのはいいけど…前よりパワーアップしたらしくてさ」

 濃厚になった魔気を、葵は吸いこんでしまったのか。

「いいの、近くに来て…もう生きてた意味はちゃんとあったから」

 そんな彼女の熱意に、しかし、貴沙は苦笑しながら窓辺まで下がった。

「また来るわよ。あんたが生きてる限り」

 くん、と。

 貴沙が鼻を鳴らした感覚を、早紀は共有していた。

 消毒薬の臭いに混じる、かすかなかすかな潮の香り。

 貴沙の怪訝と、早紀の記憶の中の伊瀬が混じる。

「海の奴…来てんの?」

 さも自分の記憶のように、彼女は葵に問いかける。

 はにかむように、葵は微笑んだ。

「ええ…元気になるようにって、時々不思議な薬を持ってきてくれるわ」

 さっきも来てくれたの。

 葵の言葉に、早紀は安堵していた。

 彼が、昨夜の大空蝕に参加していたのかどうかは分からない。

 ただ、彼が無事だった事実に本当に安堵する。

 味方ではないと、理解してはいるのだが。

「ああ…なるほど」

 貴沙は、ちらりと窓の外を見た。

 下方に広がる地面を。

 この病室の窓を、見上げる男が一人──伊瀬だった。