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「解放者になられた事、喜ばしく存じ上げます」

 カシュメル家に、鎧鍛冶の一族がやってきた。

 しかし、それはタミの一族ではない。

 血は、続くほどに枝分かれしていく。

 だから、ここにいるのは真理の鎧を作った一番近い血の一族となる。

 彼らは、沢山の貢物を恭しく差し出す。

 一族の鎧から、解放者が出たのは真理が初めてだという。

 極東で初と言われれば、悪い気はしないものだ。

 彼らの呼ぶ解放者なる魔族のことは、公に語られることはない。

 何故なら、意図して手に入れることは非常に難しく、失敗は死を持って購わなければならないからだ。

 無駄に挑まれると、あっという間にその血族が絶えてしまいかねない。

 だからこそ、解放者同士で語られることはあっても、一般の鎧持ちに伝わることはないのだ。

「俺は、どうなるんだ?」

 一通りの祝辞を受け終わった後、真理はソファから鷹揚に問いかけた。

「後ほど、『あの方』からお声がかかるでしょう」

 トップの沙汰を待て、と。

 そう言うのだ。

 そうか。

 薄く真理は、笑った。

 その沙汰が、下剋上のチャンスとやらか、と。

 前の大空蝕の時、解放者となった者が、『あの方』とやらになったのだろうから。

 下剋上したい、というわけではない。

 真理に、その可能性が与えられたという事実を、大きく受け止めたのだ。

「ところで…」

 鎧の一族の視線が、周囲をさまよった。

「もしよろしければ、卿の憑き魔女殿を拝見したいのですが…」

 本来、憑き魔女に殿などをつけることはない。

 鎧鍛冶の一族の位も、決して低いわけではないのだから。

 だが、解放者の憑き魔女ともなると違うのか。

 真理は、複数の意味で微かに笑みを浮かべた。

「あなたがたのお探しの者なら…」

 視線を、動かしもしなかった。

「…俺のすぐ隣に、ずっと座っているが?」

 早紀は、申し訳なさそうに──しかし、もっと小さくなってしまった。