極東4th

「解放すると…どうなるの?」

 早紀は、呆れながら聞いていた。

 毎晩、彼と付き合ってきたせいだろうか。

 驚くことはあっても、不思議と恐怖はなかった。

 いつもの彼らしい話し方だったことも、早紀を後押ししてくれているのか。

 最初から、彼には図太い態度を取っていた気がする。

「「自由になるだけさ」」

 男は、ニヤニヤした声で答える。

 こんな鎧稼業とは、もうオサラバ──そう言いたいのか。

「契約は…?」

 早紀は、自分の額を指した。

 彼が鎧をやめるというのなら、早紀はもう鎧になることはできない。

 魂を、彼との契約に捧げたことになっている。

「「だから…もう一人準備するチャンスを…やったろう?」」

 鎧の男は、軽く顎で倒れたままの貴沙を指す。

 どういう、こと?

「「契約したのは一人分の魂だ…オレと分離する時に、一人分の魂がなくなってもお前は生きられるだろ?」」

 実に。

 実に、彼らしい考えのように思えた。

 奇妙な情けと、奇妙な残酷さを同時に持っている。

 早紀が生き延びるチャンスとして、貴沙の魂を取りに行かせたのだ。

 そして、貴沙の魂を犠牲にして生き残れ、と。

 何とも素晴らしい計画ではないか。

「はは…」

 早紀は、思わず笑ってしまった。

 本当におかしいことを考える鎧だ。

 その笑い声に、もう一つ笑い声がかぶった。

「あははは…それは面白い話だわ」

 ゆっくりと、貴沙が身を起こす。

「早紀の記憶では見たけど…初めて会うわね、鎧野郎」

 立ち上がり、髪を払う。

「「どっちの魂でも、オレは構わんぞ」」

 鎧野郎と呼ばれても、男は気配一つ変えはしない。

 それどころか、二人で争えといわんばかりだ。

 早紀は、貴沙を見た。

 貴沙も、彼女を見た。

 爽快感とは、この一瞬のことだろうか。

 意識にすっと涼しげな風が吹き込んで、暗雲をすべて追い払ってくれるような、そんな感覚。

 早紀は、自分の口角が上がるのを感じた。

 貴沙は、目を細める。

「どっちも…いやだなあ」
「いやに決まってんでしょ」