極東4th

 7時58分。

 早紀は、真理の部屋の前にいた。

 制服のまま、ノックをためらっているのだ。

 正直に言うまでもなく、入りたくない。

 一緒におでかけなど、ありえない。

 勿論、真理のことは嫌いではないし、あこがれさえあった。

 しかし、自分と一緒に行動できる人とは、とても思えない。

 なのに、そんな相手と異常な契約を、してしまったらしいのだ。

 今日の早紀は、学校で生きた心地がしなかった。

 地味に地味に生きてきたことが、無駄になるとしか思えない、額の落書きのせいだ。

 だが。

 不思議なことに、早紀をじろじろ見たり、指をさしたりする人などいなかった。

 もしかしたら、彼らには見えないのか、あるいは、珍しいものではないのか。

 とにかく、その点だけは、早紀は助かっていたのだ。

 しかし。

 だからといって、真理から逃げることは出来ない。

 あーうー。

 早紀が、ノックの手を上げては下ろしていると。

「……」

 ドアが――勝手に開いた。

 冷ややかな目が、自分を見ている。

 真理だ。

「い、いま、ノックをしようと!」

 心臓が飛び出しそうになりながら、苦しげに誤魔化す早紀の手を、彼は掴むなり部屋に引っ張りこんだ。

 うええ?

 真理に触られるのは、まったく慣れていないので、分かりやすく早紀は慌てた。

「待ちくたびれたよ」

 だが、二人きりではなくて。

 うっ。

 早紀が、つい身構えてしまう相手の、修平がいるではないか。

「いよいよだね」

 早紀の様子などお構い無しに、修平は浮かれた声を上げる。

 くるり。

 真理は、彼には反応せず、早紀の方を向き直る。

 えと、なにが。

 早紀が質問する暇も、まるでなかった。

 離された真理の手が、そのまま彼女の目の前まで上がってきたからだ。

 白く細い長い指先が。

 早紀の額を――丸く撫でた。

 ガシャン!

 それは、自分の身体から聞こえた音だった。