極東4th

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 早紀が、もう一人を受け入れた瞬間を、真理はまばたきもせずに見ていた。

 二つの水が、渦潮のような力強さを持って、二人を引きちぎったように見えた時さえ、微動だにせず見つめ続けたのだ。

 そして。

 水の体内から、羊水と共に――早紀は、吐き捨てられた。

 乱暴な出産シーンだった。

 女が、ゆっくりと顔を上げる。

 少し髪が伸びたが、それはまっすぐなまま。

 だが、瞳が。

 その瞳が、片方だけ濃紺に代わっていた。

 暗いところでは、黒と見間違いうほどの暗い水の色。

 身体の中の宝珠が、彼女の魂に深く食い込んだかのように。

 人間の女が、生まれた女を貴沙と呼んだ。

 女は応えた。

「早紀…」

 その名を呼ぶ役は、自分だった。

 振り返る女の顔は――まごうことなき早紀のものだった。

「あっと…あの…ただいま」

 とぼけた、そして図太い娘。

 ああ。

 その瞬間の自分の心とやらは、不可解なものだった。

 これが、『願い』とやらのせいか、と。

 彼女が消えるはずなどないと、根拠なく理解していたというのに、いざ早紀の声を聞くと、信じられない安堵がよぎったのだから。

 カシュメルの当主が、安堵などと――微かでも、願っていた証拠だった。

 早紀であれ、と。

 だが。

 安堵の一瞬遅れで、不穏を感じていた。

 この世界が、微かな揺らぎを見せたのだ。

 女たちが気付かないほど、小さく小さく。

 早紀と貴沙がひとつになったことで、世界の維持にヒビを入れたのか。

「帰るぞ…」

 しかし、真理は急かなかった。

 正確に言えば――急いたところで、帰り方など分かりはしないのだ。

 最初から、命綱などなかった。

 ただ。

 鎧の言葉は、覚えている。

 早紀が。

 手を。

 取る。

 すべてが。

 壊れる。

 真理は、迷うことなく、深みを目指した。

 鎧の言うところの――奈落へと。