極東4th

 変な、感覚だった。

 記憶を探ろうとすると、意識が混線する感覚だ。

 葵を思い起こそうとすると、年齢の違う二人の彼女が入り乱れる。

 周波数が、うまく合わない。

『そのうち慣れるわよ…って、うわ、これはひどいわ』

 向こうは、早紀の記憶と混線しているせいか、げんなりした声をあげた。

 かなり恥ずかしい。

 同じ自分でありながら、真反対の人生を送ってきたのだから。

 だが。

 記憶が混線しない相手も、いる。

 真理、だ。

 貴沙が、意識レベルを慣れさせようとしている間に、早紀は彼に向き直っていた。

 自分で自分は見えない。

 だから、彼の目を通して、早紀は自分を見ようとしたのだ。

 真理は、視線を無駄に動かすことはなかった。

 ただ、まっすぐに早紀の目を見ている。

 そんな彼女の方へ、そして足を進めるのだ。

「帰るぞ…」

 手を、差し伸べられる。

 言葉が。

 また、言葉が死にそうになる。

 彼から向けられるひとつひとつが、今までのどれとも違って見えるのだ。

 優しいわけではない。

 だが、その手は――早紀の意思を待つ手なのだから。

 そんな彼女の心の隙間に、貴沙は葵を振り返っていた。

「それじゃ」

 貴沙からの言葉は、一言。

「うん…貴沙、未来でね」

 小さく、泣き笑いの手が振られる。

 そして。

 貴沙は、動かなくなった。

 早紀に身体のすべてを預けた気配だけが、はっきりと彼女の中に残る。

 真理の手は、差し伸べられたまま。

 その手が。

 その手が、とても冷たいことを知った時――世界は砕けた。