ドォン。
音は──早紀の中で起きた。
身体の中心で、何かが大きく動いたのだ。
腹部の中心、いや、身体の中心から下が冷たくなる。
早紀は、自分の下半身が、水に浸かっていることに気づいた。
うまく動けないまま、握り合った手の向こうを見ると。
貴沙は、上半分が水で覆われている。
長い髪が、水の中を立ちのぼるように広がっていた。
しかし、彼女の目もまた、早紀をしっかりと見ている。
逆さまの二つの水の塊が――うなった。
うなり、ひねり、巨大な水流となって、早紀を、そして貴沙をねじ切ろうとしたのだ。
立っていられるはずがなかった。
全身を粉々にする力が、身体を宙に舞わせて。
腕が、一瞬で雑巾絞りのようにねじれたのを見た。
手のひらだけが。
熱かった。
バシャンッ!
次の刹那。
水が、彼女を吐き捨てた。
いや。
『私』を、吐き捨てたのだ。
『あたし、よ』
思考に、訂正が入った。
ああ、うん。
それに、けだるく答える。
「き…さ?」
おそるおそるかけられる声。
葵がいる。
「なに? 辛気臭い顔しないでよ」
唇が、勝手に動いた。
自分の声か理解できないほど、力に溢れた音。
葵は、目を潤ませて、自分の顔をおさえている。
「早紀…」
背後で。
背後で、名前を呼ばれた。
『私』の名前だ。
ふり、かえる。
静かな目が、『私』を見ている。
「あっと…あの…ただいま」
いま、彼女の言える、精一杯の言葉だった。
音は──早紀の中で起きた。
身体の中心で、何かが大きく動いたのだ。
腹部の中心、いや、身体の中心から下が冷たくなる。
早紀は、自分の下半身が、水に浸かっていることに気づいた。
うまく動けないまま、握り合った手の向こうを見ると。
貴沙は、上半分が水で覆われている。
長い髪が、水の中を立ちのぼるように広がっていた。
しかし、彼女の目もまた、早紀をしっかりと見ている。
逆さまの二つの水の塊が――うなった。
うなり、ひねり、巨大な水流となって、早紀を、そして貴沙をねじ切ろうとしたのだ。
立っていられるはずがなかった。
全身を粉々にする力が、身体を宙に舞わせて。
腕が、一瞬で雑巾絞りのようにねじれたのを見た。
手のひらだけが。
熱かった。
バシャンッ!
次の刹那。
水が、彼女を吐き捨てた。
いや。
『私』を、吐き捨てたのだ。
『あたし、よ』
思考に、訂正が入った。
ああ、うん。
それに、けだるく答える。
「き…さ?」
おそるおそるかけられる声。
葵がいる。
「なに? 辛気臭い顔しないでよ」
唇が、勝手に動いた。
自分の声か理解できないほど、力に溢れた音。
葵は、目を潤ませて、自分の顔をおさえている。
「早紀…」
背後で。
背後で、名前を呼ばれた。
『私』の名前だ。
ふり、かえる。
静かな目が、『私』を見ている。
「あっと…あの…ただいま」
いま、彼女の言える、精一杯の言葉だった。


