極東4th

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「一緒に…行かない?」

 ようやく、言葉が生まれる。

 早紀は、気が付いたら手を差し出していた。

 真理の言葉で、明らかに温度を上げた瞳を、早紀はまっすぐに見る。

 もう一人の自分。

 真理の父親を愛していたのは驚きだが、その男の死にイデルグが関わっていたかもしれないというのだ。

 その疑惑が、貴沙の心をかきたてているようだった。

 早紀と一緒にくれば、未来のイデルグに会うことは出来る。

 それが、どんな形になるのかは分からないが。

「……」

 貴沙は黙り込んだ。

 そして、一度だけちらと、葵の方へと視線を馳せるのである。

「大丈夫よ…貴沙」

 葵は、小さく笑った。

「未来の私はまだ生きているもの…あなたが来るのを、生きて待っているもの」

 向こうで、待ってるわ。

 早紀の目に、不思議な愛の形が見えた。

 女二人。

 お互いの伸ばした指先を、一瞬だけ触れあわせて離すだけの接触。

 そうするなり。

 貴沙は、視線と身体をまっすぐに早紀に向けるのだ。

 全てを断ち切ったように。

「どこへでもいくわよ」

 そして、大上段に構えて、早紀を睨み下ろすのである。

 圧倒されるほど、イキのいい魔女だ。

 早紀は、その圧倒に苦笑しながら──真理を一度振り返った。

 彼の視線が、瞼によって軽く伏せられる。

 行って来い。

 そう言われている気がした。

 前を向き直る。

 貴沙は、ずっと握りしめていた片方の手を開く。

「これが、役に立つんじゃない?」

 虹色の、海の珠。

 彼女の運命を変え、早紀を作りだした海の宝。

 どう役に立つかは分からなかったけれど、早紀はもう一度彼女に向けて手を差し出す。

 貴沙は、珠を指で支えたまま、その手を差し出してくる。

 重ねる。

 珠が手のひらに食い込んで痛いほど強く──握り合った。