極東4th

 強い抱擁ではない。

 両腕を身体に回し、引き寄せる穏やかなものだ。

 だが。

 あの真理が、早紀を抱きしめている──その事実には、変わりがない。

 この歪んで狂いかけた、ヒキガエルの身体を。

 あっ…あっ。

 言葉が死ぬ。

 頭の中から、これまで覚えた言葉の全てが死に絶えてゆく。

 それくらい、早紀は真っ白になっていた。

「大丈夫だ」

 だから。

 頭の側でこぼれた声も、意味が分からなかった。

 耳で音を拾うのが、精いっぱい。

「何と混じろうが…お前は早紀だ」

 言葉が──死ぬ。

 死は、優しくない。

 素晴らしくもない。

 愛しくも、温かくもない。

 けれど、いつも側にある。

 特に早紀の側には。

 そんな死と同じように。

 側に真理がいる。

 温かいとは思えない抱擁だが、そこに憐れみはなかった。

 打算も慰めも。

 だが、初めて真理から──愛を感じた。

 温かくはない愛も、この世にはあるのだ。

 それをあの真理が、初めて早紀に流し込んでくれたのである。

 言葉を亡くしたまま、彼女は真理を抱き返していた。

 自分の意思で。

 そして。

 今度もまた、自分の意思で。

 真理から離れた。

 言葉は浮かばない。

 けれど。

 早紀は──前を向きなおした。