極東4th

 早紀が、いた。

 空間の認識に、一瞬時間が必要だったが、軽く頭を振った直後、真理のすぐ前に早紀が立っているのが分かる。

 ただし、背中を向けて。

 彼女が、進もうとする先にいるのは──

 ありえない、はない。

 ここは、鎧の中の世界。

 いや、もっと深く違う次元なのだ。

 でなければ、彼が早紀を見失うはずなどないのだから。

 ここで、向こうの常識など通用するはずがなかった。

 だから──貴沙と呼ばれる魔女がいても、おかしくもなんともないのだ。

 だが。

 あの早紀から、悪意が漂っている。

 その手を、悪意を持って貴沙に伸ばそうとしていた。

 早紀は、貴沙で。

 貴沙は、早紀なのだ。

 その表裏一体の、同じ生き物を末梢しようとしているのだと、真理は瞬間的に理解した。

 危険な行動だった。

 もし、この世界が過去の現実につながっているとするならば、それは自殺にも等しい行動なのだから。

 まだ。

 真理は、足を踏み出した。

 まだ、失うわけにはいかない。

 その肩を。

 掴んで。

 引き戻す。

 悪意があったことさえ疑わしいほど軽く、彼女は自分の元へと帰ってきた。

「やめておけ…」

 言葉に、よろける身体。

 その身体を、抱きとめる。

「…しん…り」

 震える声。

「ああ…」

 自分を呼ぶ、しかし──真理の内側を震わせる声だった。