極東4th

 手を、伸ばす。

 両手を。

 その白く綺麗な首筋へ。

 早紀は、生まれて初めて人を自ら害しようとした。

 貴沙は、何故か動けないでいる。

 彼女の身軽さならば、すぐさま早紀など払いのけて逃げられるだろうに。

 指が。

 首筋に。

 かか──ぐいっ!

 早紀の周辺で、二つの力が動いた。

 一つは葵。

 彼女が、動かない貴沙を後方に強く引っ張って、早紀から引き離す。

 しかし。

 しかし、もう一つ。

 力があった。

 それは、早紀の身体を後方に引っ張るもの。

 登場人物は、三人のはずだ。

 だから、もう一つの力など、動くはずがない。

 じゃあ、誰が。

 誰が、早紀を動かそうとしたのか。

「やめておけ…」

 頭の側で──声がした。

 瞬間。

 ぐらん。

 視界が回るかと思うほどの、精神的な衝撃が全身を駆け巡る。

 身体がよろけて後方へ傾くのを、何かが受け止めた。

 ここは早紀の夢の更に夢の中。

 そこに、いるはずのない者が、紛れ込んでいる。

「…しん…り」

 振り返れないまま、震える唇でその音をこぼす。

 自分を、憐れんだ男。

「ああ…」

 だが。

 いま、彼女を支えている男でもあった。