極東4th

「綺麗でしょ…」

 言ったのは、貴沙。

「これ、なに?」

 問いかけたのは、葵。

 手のひらの中の、美しい珠。

 早紀は──それを見ていた。

 あっ。

 その光景に、早紀は後ずさった。

 また、だ。

 また、鎧の男の見せる夢に引きずり込まれたのだ。

 夢。

 いや、自分の中にある過去の現実。

 前は、貴沙として見ていた光景を、今度は少し離れて早紀として見ている。

「これはね…青の珠。裏返りの…珠」

 もてあそぶように、貴沙はそれを転がした。

 自分を生みだす元凶となった世界が、いままさに目の前で流れている。

「裏返り?」

「そう…あたしは生まれ変わるの」

 ふふふ。

 閃かせる舌は、猫のよう。

 傍から見ていると、本当に貴沙という女が魅惑的であったことが分かる。

 彼女と自分が同一人物とは、とても信じられないほど。

「待って」

 その手を、葵が止める。

「生まれ変わるって…何故? 貴沙のままでいいじゃない」

 顔色のよくない葵は、何も知らないのだ。

 自分の病気のために、貴沙がそうしようとしていることを。

「私が嫌なのよ…せっかく面白い力を持ってたって、いまのままじゃ宝の持ち腐れだもの。これを飲めば、私は魔族の連中の中で暴れられるわ」

 葵のことなど、関係ある素振りも見せない。

 知らなければ、早紀だって騙されるほどの名演技だ。

「そんな…」

 口ごもる葵に、貴沙は何かを言おうとしていた。

 その唇が、はっと息を飲む。

 目が。

「誰か…いるの!?」

 彼女の目が、部屋の中をぐるりと巡った。

『おっと』

 早紀の頭の中で、そんな声がする。

 鎧の男の声だった。

 気づいたら、彼の前にいて。

 貴沙も葵もいなくなっていた。

「さっきの…何?」

 何故か、どきどきする胸を押さえきれずに、早紀は問いかけた。

「さあて…なんだろうなぁ」

 素直に答える男では、なかった。