極東4th

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「毎夜、お返しします」

 タミの話を、早紀は身を固くして聞いていた。

 エンドリンの兄妹が、屋敷にやってきたのだ。

 早紀は、真理にくっついていたので、必然的に同席する形になり──つらい話を聞かされることとなった。

 要するに。

 珠を取り出す手段を調べるために、早紀を貸せと言ってきたのだ。

 ただし、蝕が起きるかもしれないため、夜には返すと。

 真理が要求をのみやすいよう、最初から譲歩してきたのだろう。

 その譲歩を彼がのんでしまいそうで、とても怖かった。

 隣にいる真理の袖に、触れ続けることでしかその怖さと戦えない。

「断ると…どうなる?」

 早紀の方を見ないまま、彼は静かに言葉を続ける。

「そう…ですね…もっと上の方を巻き込むことになるかと」

 ゆっくりゆっくり、タミが返した。

 あきらめる気はない、と言っているのだ。

 ふぅ、と。

 真理が息を吐く。

 それだけのことなのに、早紀は自分がびくついていることを知る。

 目の前に荷馬車があって、真理の心ひとつでそこに積み込まれるかと思うと、生きた心地がしなかったのだ。

「では」

 言葉が、短く切られた。

「では、もっと上とやらを連れて、出直してもらおう」

 真理の言葉の瞬間。

 あ。

 早紀は、喜ぶべき状況とは裏腹に、足もとの床が抜けおちた気分を味わわされた。

 ひとつ話が進むたびに、早紀の秘密が広がり、不利になってゆく気がしたのだ。

 不利──そう、真理にとって。

 自分が自分でありたいと願うだけで、どれほどの対価が必要なのか。

 本当に次に、その上とやらがやってきたら、彼はどう答えるのか。

 逃げ場が、どんどん失われていく気がした。

 ついに真理が、早紀から手を放してしまったら。

 去ってゆくエンドリン兄妹の姿をぼんやりと見つめながら、彼女は真理の袖を掴むしかできなかったのだ。