---
「毎夜、お返しします」
タミの話を、早紀は身を固くして聞いていた。
エンドリンの兄妹が、屋敷にやってきたのだ。
早紀は、真理にくっついていたので、必然的に同席する形になり──つらい話を聞かされることとなった。
要するに。
珠を取り出す手段を調べるために、早紀を貸せと言ってきたのだ。
ただし、蝕が起きるかもしれないため、夜には返すと。
真理が要求をのみやすいよう、最初から譲歩してきたのだろう。
その譲歩を彼がのんでしまいそうで、とても怖かった。
隣にいる真理の袖に、触れ続けることでしかその怖さと戦えない。
「断ると…どうなる?」
早紀の方を見ないまま、彼は静かに言葉を続ける。
「そう…ですね…もっと上の方を巻き込むことになるかと」
ゆっくりゆっくり、タミが返した。
あきらめる気はない、と言っているのだ。
ふぅ、と。
真理が息を吐く。
それだけのことなのに、早紀は自分がびくついていることを知る。
目の前に荷馬車があって、真理の心ひとつでそこに積み込まれるかと思うと、生きた心地がしなかったのだ。
「では」
言葉が、短く切られた。
「では、もっと上とやらを連れて、出直してもらおう」
真理の言葉の瞬間。
あ。
早紀は、喜ぶべき状況とは裏腹に、足もとの床が抜けおちた気分を味わわされた。
ひとつ話が進むたびに、早紀の秘密が広がり、不利になってゆく気がしたのだ。
不利──そう、真理にとって。
自分が自分でありたいと願うだけで、どれほどの対価が必要なのか。
本当に次に、その上とやらがやってきたら、彼はどう答えるのか。
逃げ場が、どんどん失われていく気がした。
ついに真理が、早紀から手を放してしまったら。
去ってゆくエンドリン兄妹の姿をぼんやりと見つめながら、彼女は真理の袖を掴むしかできなかったのだ。
「毎夜、お返しします」
タミの話を、早紀は身を固くして聞いていた。
エンドリンの兄妹が、屋敷にやってきたのだ。
早紀は、真理にくっついていたので、必然的に同席する形になり──つらい話を聞かされることとなった。
要するに。
珠を取り出す手段を調べるために、早紀を貸せと言ってきたのだ。
ただし、蝕が起きるかもしれないため、夜には返すと。
真理が要求をのみやすいよう、最初から譲歩してきたのだろう。
その譲歩を彼がのんでしまいそうで、とても怖かった。
隣にいる真理の袖に、触れ続けることでしかその怖さと戦えない。
「断ると…どうなる?」
早紀の方を見ないまま、彼は静かに言葉を続ける。
「そう…ですね…もっと上の方を巻き込むことになるかと」
ゆっくりゆっくり、タミが返した。
あきらめる気はない、と言っているのだ。
ふぅ、と。
真理が息を吐く。
それだけのことなのに、早紀は自分がびくついていることを知る。
目の前に荷馬車があって、真理の心ひとつでそこに積み込まれるかと思うと、生きた心地がしなかったのだ。
「では」
言葉が、短く切られた。
「では、もっと上とやらを連れて、出直してもらおう」
真理の言葉の瞬間。
あ。
早紀は、喜ぶべき状況とは裏腹に、足もとの床が抜けおちた気分を味わわされた。
ひとつ話が進むたびに、早紀の秘密が広がり、不利になってゆく気がしたのだ。
不利──そう、真理にとって。
自分が自分でありたいと願うだけで、どれほどの対価が必要なのか。
本当に次に、その上とやらがやってきたら、彼はどう答えるのか。
逃げ場が、どんどん失われていく気がした。
ついに真理が、早紀から手を放してしまったら。
去ってゆくエンドリン兄妹の姿をぼんやりと見つめながら、彼女は真理の袖を掴むしかできなかったのだ。


