極東4th

「私…このままでいたい」

 鎧から生身の身体に戻った早紀は、自分に印をつけた男に、そう言ってみる。

 早紀の部屋。

 ついさっき、バルコニーに舞い降りたのだ。

 長い散歩だった。

 雲海に日が沈む様を、生まれて初めて早紀は見たのだ。

 その間中。

 真理は黙っていたし、早紀もステルスで遮断したままだった。

 ただ。

 お互い黙ったままだが、ずっと側にいた気がしたのだ。

 同じ太陽を見ていた。

 なにかが、真理とつながったわけではない。

 でも、彼が自分を必要としてくれている気がしたのだ。

 早紀である自分を。

 本当は、貴沙でもいいのかもしれない。

 どっちだって、彼が鎧として使えたら関係ないのかも。

 だから。

 早紀として生まれて初めて、相手を試そうとした。

 その言葉が──「私…このままでいたい」

 持てあますほど面倒な彼女に、真理はなんと答えるのか。

 彼は、自分を見ている。

 怒りの冷気は散歩中に消えたのか、なりをひそめていた。

 ただ、静かに早紀を見ている。

 その身体が。

 すぅっと歩き出す。

 部屋を出て行くつもりなのだ。

 あっと。

 早紀は、彼を視線で追いかけていた。

 返事もせずに、行ってしまうのか。

 彼女にとって、この世で一番大事な言葉だったのに。

 崖っぷちに立った状態で、どっちに進むかを決める権利を真理に託したというのに。

 待って。

 待って、いかないで。

 伸ばしかけた手の向こうで、真理は──足を止めた。

「好きにすればいい」

 権利が、投げ戻された。

 静かな真理の唇から、振り返りもせずにこぼれた音。

 瞬間。

 早紀の身体に、しびれが走った。

 ああ、ああ。

 好きにすればいい、と。

 早紀でいたければ、早紀でいていいのだと、そう言われたのだ。

 どうでもいい、ではなかった。