極東4th

 怒っている。

 それは、すぐに分かった。

 怒って、早紀の部屋にやってきた。

 理由は分からない。

 いや、ありすぎる、のほうが正しいか。

 彼女は、真理にとってあまりに問題を抱えた魔女だ。

 だから怒っても当たりま──あっ。

 ツカツカ淀みない足取りで近づいてくる姿に、反応できずにいた早紀は。

 目の前に立った彼が、手を伸ばすのをどこか遠い意識で見ていた。

 気づいたら。

 鎧になっていた。

 なん、で。

 蝕ではない。

 しかも、まだ昼間。

 なのに彼は、早紀を鎧に変え、なおも手を伸ばすのだ。

 彼女を身に纏うために。

 満たされる。

 これまで、何度も真理はそうして早紀を満たした。

 昨日でさえも。

 その痛いほど切ない充足感が、自分に広がってゆく。

 こんな空々しい幸せなど、いらないというのに。

 早紀の部屋のバルコニーから、そして飛び立つのだ。

 どこへ。

 身を任せたまま、早紀は空を見た。

 憂鬱そのものの曇天。

 その雲そのものに、彼は向かっているように思える。

 まっすぐまっすぐ、真上に。

 暗い水蒸気の群れに突っ込み──そして、抜けた。

 雲海を足もとに見下ろす、明るい太陽の世界。

 魔族には、不似合いな美しさだ。

 そんな世界の真ん中で、真理は動きを止めた。

 何を言うでもない。

 何をするでもない。

 おそらく、目的もない雲の上。

 そんな無駄な飛翔。

 真理にしては、ありえないほどの無駄だ。

 ああ。

 ぼんやりと、早紀は思った。

 真理もまた、彼女の存在を持てあましているのだと。

 持てあまして、どうしようもなくなることがあるのだ、と。

 そう思ったら。

 ちょっとだけ、彼をいとおしく思えた。