極東4th

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 学校にも行かず、早紀は自室でぼんやりしていた。

 自堕落にベッドで横になったまま。

 だが、この部屋には地雷がある。

 彼女は、さっきからその地雷を踏んでいた。

 そう。

 母──葵の写真だ。

 いや、もう母親ではない。

 貴沙の友達。

 そう思うと、見てはしまうのに、まともに顔を見つめられない。

 そういえば。

 この写真に映っているのは、葵だけだ。

 小さな早紀と、一緒に写っている写真ではない。

 満面に笑っている顔。

 これは、誰に向けられた笑顔だったのか。

 そもそも何故、自分はこの写真をずっと持っていたのか。

 小さかった早紀が、自分で写真が撮れるはずもない。

 自分でアルバムを開けて、母の写真だけくすねてきた記憶もない。

 なのに、この写真だけは早紀はずっと大事に持っていた。

 ああ。

 布団に顔をうずめる。

 また、だ。

 また、自分が早紀ではなくなっていく。

 この写真は、きっと葵が持たせたものだ。

 いつか早紀の呪いが解けて貴沙に戻った時、自分を思い出してもらえるように。

 一番、幸せそうに笑った自分を、戻った貴沙に見せたかったのだ。

 早紀に、じゃない。

 この笑顔は、彼女に向けられたものじゃない。

 写真立てごと叩き割りたい気持ちがわきあがるが──出来ない。

 出来ない出来ない出来ない。

 貴沙の残した呪いがあるとするならば、それはこの衝動的な愛情。

 この呪縛がある限り、彼女はこの写真を見続けなければならないのだ。

 そんな、一人苦しむ早紀の部屋が。

 ノックもなしに、不躾にドアが開かれる。

 驚いて顔を上げると。

 そこには──冷気を漂わせた真理がいた。