極東4th

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 もはや、何の手立ても間に合わない。

 その事実を、真理は理解していた。

 案の定、タミはこの屋敷には帰ってはこなかった。

 既に早紀の情報は、他に漏れたと言っていいだろう。

 ふぅ。

 小さく小さく吐息をつく。

 無意識に、自分が他人を気遣っていることに気づいて自嘲する。

 同じベッドの中には早紀がいて、彼のすぐ側に寄り添っているのだ。

 シャツも掴まれたままのため、お互い昨日の制服のまま。

 本気で真理が引きはがそうとするならば、それは簡単に出来た。

 だが。

 もしいま彼女を一人にして、そしてフラフラ屋敷を出て行かれでもしたら──取り返しがつかないことになりかねなかったのだ。

 早紀の存在は、明確に爆弾となった。

 タミの一族なら、実験台に彼女を使いたいだろう。

 あの海族は、宝を取り返したがっている。

 情報は、力だ。

 タミの一族も、無作為にバラまいたりすることはないはず。

 もうしばらくは、その秘密は小さい世界で留まるだろう。

 だが、何らかに利用しようと考えているのは間違いなかった。

 そこまで考えて、真理はふと思考を止めるのだ。

 自分が、早紀を早紀として止めおこうとしている事実に、気づいてしまったのである。

 元々、憑き魔女などいらなかったのだ。

 それならば、憑き魔女が誰であっても構わないではないか。

 早紀の中の海の力を取り除き、貴沙に戻したとして何の不都合もない。

 腕の中の、早紀を見下ろす。

 そう。

 誰でも、構わないではないか。

 瞼が。

 動いた。

 湿ったままのまつ毛が、重そうに持ちあがる。

 赤く汚れた黒い瞳が、ゆっくりと彼を見上げる。

 その目は──早紀でいたがっていた。