極東4th

 朝。

 にしては、少し早いようだ。

 部屋の中は、まだ真っ暗で。

 そして。

「……!」

 違う匂いがした。

 早紀が、はっと顔を上げると。

 ほんのすぐ側に──シャツがあった。

 空っぽのシャツではなく、中身の詰まったシャツ。

 それを、早紀は両手で強く握り締めていた。

 驚きつつ、顔を上げると。

 真理が、いた。

 しかも、目は開いている。

 何故、彼が。

 そこまで考えかけて、早紀はうすらぼんやりと昨日の出来事を思い出すのだ。

 とにかく昨日の彼女は、何かにしがみついていなければ、自分という存在を保つことも出来ない有様で。

 ただひたすらに、目の前にある誰かに掴まり続けていたのだ。

 病院の窓から飛び出した時も。

 鎧を解除された時も。

 その途中で、本当に何も分からなくなった。

 いまもなお、シャツにしがみついているということは。

 早紀は眠ってもなお、真理を離さなかったのだ。

 彼は自分を見ている。

 そんな彼を、自分は見ている。

 何を、どう言えばいいのか分からなかった。

 私は本当は真理より年上で、早紀という生き物ではなくて、この能力もただ単に母の力がひっくりかえっただけです。

 既に、どこまで彼が知っているのかは分からない。

 もしかしたら、真実を知らないのかもしれない。

 真実を知らないというのならば。

 この事実こそ、早紀は秘めたいと願った。

 でなければ。

 でなければ、自分を『早紀』と呼ぶ人は、誰もいなくなってしまうのだ。

「う…」

 こみあげる何かを、彼女は飲み込もうとした。

 指も、離せない。

 真理は、何も言わなかった。

 指も──ひきはがされなかった。