極東4th

 なんで好きになったかなんて、貴沙は考えもしなかった。

 ただ、この寿命も短く、ひねっただけで軽く死んでしまいそうな人間を、彼女は結局、気に入ってしまったのだ。

 気に入ってしまったら、それが全てだ。

 毎夜毎夜。

 彼女は、葵の元へと飛んできては、くだらない話を話したり聞いたりした。

 そんな付き合いをしつつ、一年ほどたった時。

 葵は──倒れた。

 そこでようやく、貴沙は理解したのだ。

 自分が持つ魔気が、人間を弱らせる事実を。

 知らなかったわけではない。

 ただ、どの程度弱るのかなんて、これまで人間と付き合ったことがなかったから知らなかったのだ。

 このまま、葵の元へ通い続ければ、彼女は死んでしまうかもしれない。

 そこで、身を引く──あいにく貴沙は、そんなタマではなかった。

「へぇ、海族にはそんな面白い珠があるのね」

 魔力は弱いが、無駄に知識だけは持っている魔族を軽く『暴き』、貴沙はその情報を手に入れたのだ。

 人間と、一番上手に付き合える種族が、そいつらだったのだ。

 能力を裏返す珠。

 貴沙の魔力は、天力に裏返るのだろうか。

 それはそれで、面白そうだった。

 もし、彼女が天力を得たなら、魔族の全てを自由に暴けるようになる。

 勿論、相手の魔力も自分に強く効くようになるだろうが、それもまた一興。

 何より。

 天力は、人間にとっては幸福を産む力、と言われていた。

 天族は滅多に人間には接触しないようだが、魔力とは逆の意味で作用するのだろう。

 だから貴沙は。

 海族の世界へと、身ひとつで飛び込んだのだ。

 魔と天の力が交錯するそこは、彼女にとって悪い戦場ではなかった。

 そして。

「はぁい」

 ズブ濡れの魔女は、葵の部屋に降り立った。

「どうしたの?」

 横になっていた彼女が、驚いて起き上がる。

「ちょっと海まで、ね…それより面白いものを手に入れたわ」

 濡れたままベッドの端に腰かけ、手のひらを開いて見せる。

 虹色の真珠ほどの──美しい海の宝だった。