極東4th

「しかし、いきなりエンドリン家の婚約者を殺そうなんて…穏やかじゃないね」

 ソファに対面で座る。

 向かいには、トゥーイ一人。

 真理は、早紀を膝の上に抱えたまま。

 零子は、斜め後方から立ったままこちらを見ていた。

 エンドリン家──タミのことだ。

 婚約者ではない。

 しかし、その否定は無意味だろう。

 同じ家に、既に住んでいたのだ。

 周囲にはそう思われていても、不思議ではなかった。

 ハイクラスの魔女を雇用していたなど、信じる方が少ないだろう。

「痴情のもつれ…というわけではないんだろうし…何事かな?」

 トゥーイの視線が、腕の中の早紀に向く。

「痴情のもつれだ」

 真理は、淀みなくうそぶいた。

 本当のことを、この男に言えるはずなどないのだ。

 大体、こんなところに連れてこられたこと自体、本意ではない。

 さっさと帰ってしまいたかった。

「はっ…うすら寒い嘘だな」

「嘘?」

 トゥーイの言葉を、真理は冷たい疑問形で返した。

 そう。

 彼は、冷たい嘘をつこうとしたのだ。

「イデルグの双子と、俺がどうなったか…知っているだろう?」

 この男が、先日の情報を知らないはずがない。

 自分の嫌な過去さえも、いまの真理は利用する気だった。

「まさか…」

 トゥーイは、微かに鼻白んだ。

「あの女は、早紀を泣かせた」

 早紀を、軽く抱きなおす。

 何の抵抗もない。

 もう、考える気力など、彼女には残っていないのだろう。

「君らしくない…」

 疑いが、ほんの少し掠れる。

 もう一押しか。

「らしくなくて…結構だ」

 真理は、彼女をもう少し引き上げた。

 ためらいなく、口づける。

 真理の唇より──冷たかった。