「彼女の力は、天の物ではありませんわ」
頭の上で、会話が交わされる。
「そう…あれは海族用だからね。魔族が使うことは想定されていない。彼女の場合は、おそらく変異現象が起きたのだろう」
あは。
早紀は、壁に手をついた。
そうしないと、立っていられなかったのだ。
鎧が、昔こう言った。
魔力が、折れていると。
折れたところから、水は出ていると。
折ったのは、珠。
海族の、宝の珠。
あの水は。
自分のものではなかった。
彼女に、海族の血など流れていない。
謎の父親など、いないのだ。
「あは…ははは」
ずるずると、壁をずり落ちながら、早紀は笑った。
なんという。
なんという滑稽な結末。
私なんて。
私なんて、いなかったんだ。
早紀なんて、この世のどこにもいなかった。
ここにいるのは、ただの貴沙の変異種。
「私は…君の中の珠を、返してもらいたい」
伊瀬が、彼女を見る。
自分を殺そうとしたのは――珠を取り返すため。
これを返したら。
貴沙に戻るのか。
母の言う、『呪いが解ける』のか。
そして。
消えるのか。
早紀という存在は。
刹那。
風が――巻いた。
開いたままの窓に、昼の短い影が入る。
見ていた。
世界中が、早紀を否定しようとしている中。
その、短い影を追い掛けてしまった。
「帰るぞ…早紀」
冷えた風が――彼女の名を呼んだ。
空に浮いたまま。
人間にも、タミにも、海族にも目もくれず。
いまにも床に落ちてしまいそうな、早紀を呼んだのだ。
空気を、かきわけた。
彼女は、無我夢中で両手を動かし、自分の身体を前に進ませる。
空気さえ泳いで、早紀は遠く感じたそこへたどり着く。
「真理!」
窓から飛び降りる勢いで――彼にしがみついていた。
頭の上で、会話が交わされる。
「そう…あれは海族用だからね。魔族が使うことは想定されていない。彼女の場合は、おそらく変異現象が起きたのだろう」
あは。
早紀は、壁に手をついた。
そうしないと、立っていられなかったのだ。
鎧が、昔こう言った。
魔力が、折れていると。
折れたところから、水は出ていると。
折ったのは、珠。
海族の、宝の珠。
あの水は。
自分のものではなかった。
彼女に、海族の血など流れていない。
謎の父親など、いないのだ。
「あは…ははは」
ずるずると、壁をずり落ちながら、早紀は笑った。
なんという。
なんという滑稽な結末。
私なんて。
私なんて、いなかったんだ。
早紀なんて、この世のどこにもいなかった。
ここにいるのは、ただの貴沙の変異種。
「私は…君の中の珠を、返してもらいたい」
伊瀬が、彼女を見る。
自分を殺そうとしたのは――珠を取り返すため。
これを返したら。
貴沙に戻るのか。
母の言う、『呪いが解ける』のか。
そして。
消えるのか。
早紀という存在は。
刹那。
風が――巻いた。
開いたままの窓に、昼の短い影が入る。
見ていた。
世界中が、早紀を否定しようとしている中。
その、短い影を追い掛けてしまった。
「帰るぞ…早紀」
冷えた風が――彼女の名を呼んだ。
空に浮いたまま。
人間にも、タミにも、海族にも目もくれず。
いまにも床に落ちてしまいそうな、早紀を呼んだのだ。
空気を、かきわけた。
彼女は、無我夢中で両手を動かし、自分の身体を前に進ませる。
空気さえ泳いで、早紀は遠く感じたそこへたどり着く。
「真理!」
窓から飛び降りる勢いで――彼にしがみついていた。


