き…さ。
呼ばれた名に、早紀はよろめいた。
それは――母の、産みの母の名前。
あの、イデルグを翻弄し、海族の宝を奪った女。
「どういう…からくりですの?」
動けないでいる早紀の横を、通り過ぎる黒い影。
タミだ。
これまで黙っていた彼女が、二人の間に割って入ったのである。
「貴沙と呼ばれた魔女は死んで…その娘が、この子ではありませんの?」
「違ったんだよ」
質問に答えたのは――育ての母ではなかった。
早紀は、更に割り込んできた者を見なかった。
声で、分かったのだ。
「海族…」
身構えるタミの声。
「いつか、来ると思っていた…」
声が、早紀に向く。
伊瀬だ。
この病院は、海族の監視下の元にあったのだろう。
「あの魔女は、我らの宝を奪った…そして、自分自身に使ったのだ」
足に、力が入らない。
指先が、氷のように冷たくなって震える。
「我らの宝…裏返りの珠を」
意識が、裏返りそうだった。
世界のすべてを道連れに、何もかも消えてしまいそうだった。
「裏返りの珠は、元々、海族の鎧の継承者の能力が、偏らないようにする物」
私は…。
「天と魔に対応するために、偏って生まれた場合、その珠を飲ませる」
私は…。
「天は魔になり、魔は天になる…力が裏返る」
私は…さ…。
「赤ん坊の時以外、海族でも使われることはないために、私もすぐには気付けなかった」
私は…さき。
「あれは…裏返って生まれ直す珠なのだ」
パキン。
早紀の中で、プラスチックが割れたような音がした。
裏返ろうとする力に耐え切れず、二つに割れる音。
それが、いまの自分なのだと――音が教えてくれた。
呼ばれた名に、早紀はよろめいた。
それは――母の、産みの母の名前。
あの、イデルグを翻弄し、海族の宝を奪った女。
「どういう…からくりですの?」
動けないでいる早紀の横を、通り過ぎる黒い影。
タミだ。
これまで黙っていた彼女が、二人の間に割って入ったのである。
「貴沙と呼ばれた魔女は死んで…その娘が、この子ではありませんの?」
「違ったんだよ」
質問に答えたのは――育ての母ではなかった。
早紀は、更に割り込んできた者を見なかった。
声で、分かったのだ。
「海族…」
身構えるタミの声。
「いつか、来ると思っていた…」
声が、早紀に向く。
伊瀬だ。
この病院は、海族の監視下の元にあったのだろう。
「あの魔女は、我らの宝を奪った…そして、自分自身に使ったのだ」
足に、力が入らない。
指先が、氷のように冷たくなって震える。
「我らの宝…裏返りの珠を」
意識が、裏返りそうだった。
世界のすべてを道連れに、何もかも消えてしまいそうだった。
「裏返りの珠は、元々、海族の鎧の継承者の能力が、偏らないようにする物」
私は…。
「天と魔に対応するために、偏って生まれた場合、その珠を飲ませる」
私は…。
「天は魔になり、魔は天になる…力が裏返る」
私は…さ…。
「赤ん坊の時以外、海族でも使われることはないために、私もすぐには気付けなかった」
私は…さき。
「あれは…裏返って生まれ直す珠なのだ」
パキン。
早紀の中で、プラスチックが割れたような音がした。
裏返ろうとする力に耐え切れず、二つに割れる音。
それが、いまの自分なのだと――音が教えてくれた。


