極東4th

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「まだ…?」

 震える喉が、それを音にしていた。

 涙を流す自分と、涙を流す育ての母。

 だが、その涙の意味が、同じものだとは早紀には思えなかった。

 まだ、って。

 にこにこ。

 記憶の中の、母が笑う。

 目の前の、母が泣く。

 ひどい悲しみを混ぜた色に見える。

 会いたかった。

 会えば、自分を早紀だと分かれば、喜んでくれると。

 そう、思ったのに。

「さ…早紀です」

 涙が、なおさら止まらない。

 愛も溢れて止まらない。

「早紀じゃ…駄目ですか?」

 何を母が待っていたのか、それは分からない。

 いまの自分の頭では、とても答えは探せない。

 でも。

 拒絶だけは、されたくなかった。

 記憶の中の母を――壊してしまいたくなかったのだ。

 壊れたら。

 壊れてしまったら、これから早紀はどうしたらいいのか。

 絶望はした。

 死んでもいいと思った。

 いろんなことが、これまであった。

 けれども、この母への愛だけは、燃え続けていたのだ。

 その火が。

 揺れる。

 消えてしまうかと思うほど大きく。

 育ての母は、濡れた瞳をゆっくりと開いた。

 もう一度、早紀がその中に映る。

「あなたが大きくなったら…呪いが解けると…思ったのに」

 あ。

 ヒステリーにも似た気配が、自分のおなかの中で、一回転した。

 育ての母の目は。

「呪いが解けたら…会いにきてくれると思ったのに」

 彼女の目は――自分を見ていない。

 自分の後ろの、誰かを見ている。

「私のことを…思い出してよ」

 伸ばされる手に、早紀は一歩下がっていた。

「私を思い出して……貴沙」