扉を開けると――窓が開いていたのか、思いの外強い風が、早紀をあおった。
一瞬、強く目を閉じた後、ゆっくりと開く。
昼の日差しが、差し込む病室。
しかし、ベッドはでっぱった壁に邪魔されて、見えない配置になっている。
どくん。
早紀の中の何かが、ひとつ大きな音を立てた。
どくん、どくん。
それが、ひとつではないことを思い知る。
一歩踏み出すごとに、それは喉から飛び出すほど、強く大きくなっていった。
布団のふくらみ。
そこに。
そこに――眠っている母が、いた。
「………!」
叫びそうになった唇を、早紀はとっさに押さえる。
ああ。
ああ…ああ。
唇を押さえたまま、早紀ははらはらと涙をこぼした。
おかあさんだ。
写真の、いや、記憶の中で薄れかけた、育ての母だ。
スイッチが入るとは、まさにこのこと。
この顔を見た途端、早紀は自分が違う生き物に感じるほどだ。
押さえきれない、愛の衝動。
何かの気配に、気づいたのだろうか。
閉ざされていたまぶたが、微かに揺れた。
薄く、静かに開かれる瞳。
泣きながら、早紀はその遅い時間を味わった。
開ききった瞳が――彼女を映すまで。
余り力の入っていない黒い目の中に、早紀が入った。
驚きは、そこにはない。
代わりに、瞳は閉ざされてしまう。
「……!」
拒否されたと感じ、早紀はショックを覚えかけた。
しかし。
そうではなかった。
閉ざされた瞼の隙間から、涙が溢れだしたからだ。
「おかあ…」
その涙に呼ばれるように、早紀は言葉をかけようとした。
なのに。
「やっぱりまだ…早紀のままなのね」
早紀の声は、奪われてしまった。
一瞬、強く目を閉じた後、ゆっくりと開く。
昼の日差しが、差し込む病室。
しかし、ベッドはでっぱった壁に邪魔されて、見えない配置になっている。
どくん。
早紀の中の何かが、ひとつ大きな音を立てた。
どくん、どくん。
それが、ひとつではないことを思い知る。
一歩踏み出すごとに、それは喉から飛び出すほど、強く大きくなっていった。
布団のふくらみ。
そこに。
そこに――眠っている母が、いた。
「………!」
叫びそうになった唇を、早紀はとっさに押さえる。
ああ。
ああ…ああ。
唇を押さえたまま、早紀ははらはらと涙をこぼした。
おかあさんだ。
写真の、いや、記憶の中で薄れかけた、育ての母だ。
スイッチが入るとは、まさにこのこと。
この顔を見た途端、早紀は自分が違う生き物に感じるほどだ。
押さえきれない、愛の衝動。
何かの気配に、気づいたのだろうか。
閉ざされていたまぶたが、微かに揺れた。
薄く、静かに開かれる瞳。
泣きながら、早紀はその遅い時間を味わった。
開ききった瞳が――彼女を映すまで。
余り力の入っていない黒い目の中に、早紀が入った。
驚きは、そこにはない。
代わりに、瞳は閉ざされてしまう。
「……!」
拒否されたと感じ、早紀はショックを覚えかけた。
しかし。
そうではなかった。
閉ざされた瞼の隙間から、涙が溢れだしたからだ。
「おかあ…」
その涙に呼ばれるように、早紀は言葉をかけようとした。
なのに。
「やっぱりまだ…早紀のままなのね」
早紀の声は、奪われてしまった。


