極東4th

 扉を開けると――窓が開いていたのか、思いの外強い風が、早紀をあおった。

 一瞬、強く目を閉じた後、ゆっくりと開く。

 昼の日差しが、差し込む病室。

 しかし、ベッドはでっぱった壁に邪魔されて、見えない配置になっている。

 どくん。

 早紀の中の何かが、ひとつ大きな音を立てた。

 どくん、どくん。

 それが、ひとつではないことを思い知る。

 一歩踏み出すごとに、それは喉から飛び出すほど、強く大きくなっていった。

 布団のふくらみ。

 そこに。

 そこに――眠っている母が、いた。

「………!」

 叫びそうになった唇を、早紀はとっさに押さえる。

 ああ。

 ああ…ああ。

 唇を押さえたまま、早紀ははらはらと涙をこぼした。

 おかあさんだ。

 写真の、いや、記憶の中で薄れかけた、育ての母だ。

 スイッチが入るとは、まさにこのこと。

 この顔を見た途端、早紀は自分が違う生き物に感じるほどだ。

 押さえきれない、愛の衝動。

 何かの気配に、気づいたのだろうか。

 閉ざされていたまぶたが、微かに揺れた。

 薄く、静かに開かれる瞳。

 泣きながら、早紀はその遅い時間を味わった。

 開ききった瞳が――彼女を映すまで。

 余り力の入っていない黒い目の中に、早紀が入った。

 驚きは、そこにはない。

 代わりに、瞳は閉ざされてしまう。

「……!」

 拒否されたと感じ、早紀はショックを覚えかけた。

 しかし。

 そうではなかった。

 閉ざされた瞼の隙間から、涙が溢れだしたからだ。

「おかあ…」

 その涙に呼ばれるように、早紀は言葉をかけようとした。

 なのに。

「やっぱりまだ…早紀のままなのね」

 早紀の声は、奪われてしまった。