病院。
早紀は、その建物の前であっけにとられていた。
そこは、前に真理に連れてこられた病院だったのだ。
窓ごしに、育ての母を見た場所。
既に、伊瀬にどこかに連れ去られたと思っていた。
しかし、そうではなかったのだ。
「ありがとう…兄様」
車に残る男に、タミは一言投げ掛けると、彼女は建物に入ろうとした。
その手を、反射的に捕まえて止める。
「私たち…ま、魔族だし」
唇に乗せる言葉は、自分自身の根元に突き刺さるものでもあった。
いまや、逃れようのない事実だとわかっていても、口にするのは辛い。
「だから?」
タミは、まったく理解していない。
「人間に近いと害になるんじゃ…」
母親という餌に食い付いておきながらも、早紀は自分が母を弱らせた事実を、捨てきれずにいたのだ。
「……すぐに済ませれば、大したことではないわ」
理解できないという響きを、タミの声は含んでいた。
普通の魔族にとっては、そんなものなのかもしれない。
それに。
じゃあ、帰ろうと言われたら、一番躊躇するのは自分なのだ。
本当かどうか分からないタミの言葉を握ったまま、早紀は病院へと足を踏み入れたのである。
ナースセンターに寄ることもなく、タミはまっすぐに階段に向かう。
いくつもの段を上り、いくつもの白い扉の前を通りすぎた。
タミの足が。
止まった。
ひとつの扉の前。
名札は、下がっていない。
下がっていたとしても、早紀の記憶にはないのだ。
照合しようがない。
あ。
タミが、一歩脇によける。
彼女に扉を開けさせようというのか。
冷たい冷たい金属の、横開きの取っ手。
ノックをすることさえ――忘れていた。
早紀は、その建物の前であっけにとられていた。
そこは、前に真理に連れてこられた病院だったのだ。
窓ごしに、育ての母を見た場所。
既に、伊瀬にどこかに連れ去られたと思っていた。
しかし、そうではなかったのだ。
「ありがとう…兄様」
車に残る男に、タミは一言投げ掛けると、彼女は建物に入ろうとした。
その手を、反射的に捕まえて止める。
「私たち…ま、魔族だし」
唇に乗せる言葉は、自分自身の根元に突き刺さるものでもあった。
いまや、逃れようのない事実だとわかっていても、口にするのは辛い。
「だから?」
タミは、まったく理解していない。
「人間に近いと害になるんじゃ…」
母親という餌に食い付いておきながらも、早紀は自分が母を弱らせた事実を、捨てきれずにいたのだ。
「……すぐに済ませれば、大したことではないわ」
理解できないという響きを、タミの声は含んでいた。
普通の魔族にとっては、そんなものなのかもしれない。
それに。
じゃあ、帰ろうと言われたら、一番躊躇するのは自分なのだ。
本当かどうか分からないタミの言葉を握ったまま、早紀は病院へと足を踏み入れたのである。
ナースセンターに寄ることもなく、タミはまっすぐに階段に向かう。
いくつもの段を上り、いくつもの白い扉の前を通りすぎた。
タミの足が。
止まった。
ひとつの扉の前。
名札は、下がっていない。
下がっていたとしても、早紀の記憶にはないのだ。
照合しようがない。
あ。
タミが、一歩脇によける。
彼女に扉を開けさせようというのか。
冷たい冷たい金属の、横開きの取っ手。
ノックをすることさえ――忘れていた。


