極東4th

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 甲斐という男は、自分の力を強化する能力を持っていた。

 イデルグの息子に、ある意味とても相応しい力だった。

 筋肉の鎧でふくれあがる姿を、真理は顎を上げて見下したまま。

 既に、美濃は沈んだ。

 右腕に張り付いた氷は、生きた氷だ。

 少しずつ、少しずつそれは美濃の身体への侵食を始め、彼は自分の力を発揮するまでもなく、氷に食われるように倒れた。

 だが、相手は魔族。

 せいぜい、半分ほどで侵食は止まったことだろう。

 動きを封じられているだけで、死んではいないはずだ。

 勿論、この後物理的にトドメを刺せば、それは叶う。

「感謝したらどうだ?」

 目の前の、力の塊に言ってやる。

「いまなら…お前が当主になれるぞ」

 嘲笑と共に。

 刹那──目の前で怒りが弾けた。

 それと共に、真理の上半身ごと砕くべく、巨大な拳が振り出される。

 なお、嘲りが浮かぶ。

 美濃は、甲斐を助けようとし氷に呑まれた。

 その美濃が倒れたことに、甲斐が怒りを発する。

 決着がつかないはずだ。

 普通の双子ならもう、どちらかの命などとっくになくなっている。

 いまだ、二人がのうのうと生きながらえているのは、くだらない感情に甘えていたからだ。

 そう理解すると、真理はおかしくてたまらなくなる。

 吹雪のマフラーを、その太い甲斐の首に巻きつけ、締め上げてやりたくなる。

 そして──してやった。

 ものともせずに、真理に拳が迫る。

 猪のごとき突進力だ。

 マフラーを、目にもかけてやった。

 真理は、雪に音を吸い取らせながら、すいと身をかわす。

 恐竜のごとき咆哮があがるのがうるさく、口にも巻いてやる。

 両手で自分の顔をかきむしるように、甲斐はマフラーを払おうとした。

 だが、その爪は。

 自分の顔に、強い傷跡を残すだけ。

 払っても払っても、吹雪はすぐそこにいくらでもあるのだ。

 もがき暴れる男を沈めようと、真理が瞼を動かしかけた時。

「真理!」

 名が。

 呼ばれた。

 吹雪を。

 止めてしまった。