極東4th

 そして翌朝。

 またも、登校の後部座席は、不自然な沈黙に包まれることになる。

 早紀の沈黙は、昨日のものとは違う。

 簡単に言えば──落ち込んでいた。

 昨夜、夢の中で鎧に言われたことが、起きてからもずっと彼女を刺し貫いていたのだ。

 だから、真理が現在どれだけ不快な状況であるかとか、どれだけキレているかとか、あまり意識を向けていない。

 自分のことで、手いっぱいだった。

 そして。

 出がけに、入り口にあった花が全部氷漬けになって粉々に砕けていたことも、確認はしたが衝撃に思うことはなかった。

「……」

 中央のタミが、右と左に一度ずつ大きく目を動かしたが、今朝は口は動かさないでいてくれるようだ。

 何で。

 何で、真理の好意を自分は欲しがったのか。

 他の誰よりも、そんなものを望めないはずの相手なのに。

 それが、分からないのだ。

 タミに、そんなものを求めていない。

 修平にも、勿論、イデルグの双子にも。

 なのに──真理には、求めてしまった。

 ちらりと。

 真理を見た。

 むっつりと、不機嫌を残した──それでも、綺麗すぎる横顔。

 子供の頃、早紀が来た時に出ていけと言った時も、こんな顔だったのかもしれない。

 ああ、そうか。

 少しだけ、心当たりを見つける。

 その出会いが、キーワードだ。

 真理は、最初から彼女を煙たがっていた。

 他の人が、空気レベルには彼女をそこに置いておいてくれたのに、彼だけが早紀を拒絶していた。

 そう。

 空気ではなく、唯一拒絶してくれた人なのだ。

 逆に言えば。

 早紀の『存在』を、たった一人強く認識してくれていた相手だった。

『出ていけ』、『まだいたのか』と面と向かって言われる度に、彼女は何とか図太く切り抜けてきた。

 だが、あの瞬間だけ、早紀という魔女は生きていた。

 この世にあって、唯一誰かから特別な感情を抱かれていた。

 それが──真理だったのだ。