極東4th

 帰りついたら。

「ああ…」

 タミが、軽く理解した声を出した。

 真理は、一瞬だけ足を止めた後、全てを無視してさっさと屋敷に入ってしまった。

 早紀は。

 あ、あは、あは。

 途方に暮れる笑いを心の中で浮かべながら、『それ』を見ていた。

 屋敷の入り口にあったのは──大量の花、花、花。

 むせかえるほどの香りが、たちのぼっている。

 よほど、香りの強い花のようだ。

 赤と黒が混じった薔薇のような花を、タミが一本抜き取る。

「あなたを、匂いで見つけるつもりかしら、あの脳筋は…」

 タミは、この犯人を甲斐と睨んだようだ。

 抜き取られた花が差し出され、早紀は反射的に受け取ってしまった。

 うーん。

 居心地が悪い。

 真理は、全力で無視したようだが、これまでの様子からすると、非常に不機嫌になっているのは分かる。

 更に、早紀としては非常に虚しい。

 突然、周囲に好意を要求する男が増えてきたが、皆、別に彼女を好きなわけではないのだ。

 それを勘違いして、舞いあがれるほど、お気楽な性格はしていなかった。

 この花は、とても暗い華やかさがある。

 彼女に似合うと思って送られたとは、到底思えなかった。

 自分を産んだ母親ならば、間違いなく似合うのだろうが。

 ため息をひとつついて、早紀は花をよけて屋敷へと入る。

 二階へと上がり、自室に戻ろうとした時。

 真理がまだ制服のまま、奥の部屋から出てきた。

 つい、そっちを見てしまう。

 真理も、遠いながらに早紀を見た。

 随分、距離があるのに。

 自分の手が──ひやりとした。

 その手に握っているのは、タミにもらった1本の花。

 あっと、慌てて花を身体の陰に隠す。

 真理は、黙ったままこっちを見ている。

 いたたまれなくなった早紀は。

 逃げるように、自室に飛びこんだのだった。