極東4th

 畏怖があるのは、想定していなかったわけではない。

 真理は、憮然としつつもその事実を受け入れた。

 しかし、当主としてカシュメルの血族の者に、尊敬されて然るべきだと、心のどこかで思っていたのだ。

 だが。

 相手は、あの早紀だったのだ。

 憑き魔女になるまで、彼女は自分が魔女である事実を知らなかった。

 だから、カシュメル家のことなど、これっぽっちも理解していなかったのだろう。

 畏敬にせよ尊敬にせよ、生まれるはずがないのである。

 そんな、鈍い娘に。

 当主自ら、魔力を分け、タミの手配をし、育ての母の人間のことを調べ、近くまで連れて行き、海族に拉致されているところを助けに行ったのだ。

 しかし、そのいずれも(魔力を分けたことはともかく)、早紀をありがたがらせることなどなかった。
 
 この女は。

 真理は、彼を『怖い』と一言で片づけた女を見た。

 重苦しい髪をタミに切られたらしく、昨日のような化粧がなくとも、随分様変わりした気がする。

 目もとは、まだおぼつかないが、それでも真理の反応を伺っていた。

 怖い、ということに対して、彼がどう出るのか。

「怖いより…」

 釈然としない結果を、真理は塗り替える必要を感じた。

 感情は、変わる。

 人によっては、それこそめまぐるしく。

「怖いより…好きになれ」

 早紀が、魔女である自分を受け入れ始めたように、いま彼女の持つ『怖い』を変えることは出来るのだ。

 それが、彼女を取り巻く不穏な環境から、彼女自身を守る力になる。

 そんな真理の言葉に。

 早紀は、一瞬固まって。

 しかし。

 直後。

 深く沈んだ表情になった。

 理解できない、感情の動きだ。

 何故、そこで沈むのか。

 唇が。

 早紀の唇が、小さく動く。

「私のこと…好きじゃないくせに」

 ぼそり。