極東4th

「面倒くさいな…」

 そう言ったのは──鎧の男だった。

 夢の中。

 リボンもない軽くなった髪を見て、彼はそう言ったのだ。

「うん…面倒くさいみたい」

 自分の髪ではなく、イデルグ事件のことだと思い、早紀はあっさりと同意する。

「先代が、憑き魔女を持ってたせいだろう」

 妙な知恵がありやがる。

 男は、ため息のように言葉を吐き出した。

 イラついて見える。

 珍しい姿だ。

「先代って?」

「イデルグ家の先代だ」

 早紀の質問は、間髪入れず返答が投げられた。

 そうか、と早紀は理解したのだ。

 鎧は、代々受け継がれているもの。

 ということは、このカシュメルの鎧は、他の3人の家系や歴史もある程度知っているということである。

「だから、奴は憑き魔女が子を成せると知ってるんだ…何しろ、自分が父親と憑き魔女の子だからな」

 当たり前のように口に出された言葉は──衝撃的だった。

 あの、イデルグのトップの母親が、憑き魔女だというのだ。

「二人の兄を押しのけて、一番下賤な血筋の男が家督を奪った話は…このオレにさえ聞こえるほどだったぜ」

 本来、戦いでしか使われない鎧にさえ届く噂。

 相当な、スキャンダルだったのだろう。

「そのせいだろうな…お前の血をイデルグに入れたいなんて、酔狂なことを考えるのは」

 要するに。

 イデルグは、家系の血の濃さとか高級感とか、まったく気にしない男なのだ。

 それでも、1stを取った。

 彼の強さの証。

「まあ、イデルグの子を孕んだ状態で、カシュメルの鎧になった時…一体どうなるか…興味がないわけじゃないがな」

 ぼそっと。

 鎧の男が、とんでもない事を言い出す。

 モラルのない戦いのみへの欲望が、そんなことを語らせるのか。

 変な興味、持たないで。

 早紀は、遠い目をしてしまった。