極東4th

「初めまして、カシュメル卿」

 手をひらりと振って、男が入ってくる。

 甲斐によく似た男──おそらく、間違いなく双子の片割れだろう。

 ただ、甲斐ほど肉体を鍛えることには、執着していないようだ。

 髪も綺麗に撫でつけているため、やや落ち着きを感じる。

 ただし。

 真理に対する態度は、兄弟そろって大差ない。

 鎧持ちの男に、ずさんな挨拶なのだから。

 そして、真理をかわすと、自分の兄弟の方へと歩みを進める。

 兄弟ゲンカでも起きるのかと、早紀がやや身を引いて身構えると。

 男は。

 甲斐さえも、スルーしたのだ。

 そんな彼が、下がった早紀の前で足を止める。

「私は美濃…お前の名前は?」

 今日──二度目の出来事だった。

 名前を聞かれるという。

 この兄弟は、どうして早紀の名前を聞こうとするのか。

 甲斐に至っては、更にひどい言葉を続けたのだが。

「おい…どういうつもりだ」

 彼女が答える前に、美濃の身体は兄弟に遮られた。

 甲斐のたくましい腕が、彼女の前に突き出されたのだ。

「どういうつもり…? それは私の言葉だ…順序も考えられぬサルが」

 上背は同じくらい。

 早紀より遥かに高い二人が、今にも胸をぶつけあわんばかりに睨みあっている。

 え、えーっと。

 やはり、兄弟ゲンカに発展しそうな雰囲気に、早紀は周囲を見回した。

 真理は、憮然とした表情のまま、イデルグの双子を見ている。

 その目が。

 早紀の視線に、気づいた。

 軽く。

 ほんの少しだけ。

 顎が動いた。

 くいっと、微かに早紀につながる糸を引くように。

 あっ。

 どきっとした。

 いま、真理に──来い、と呼ばれた気がしたのだ。