極東4th

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「あれは、憑き魔女ですよ」

 真理は、非難めいた冷気を隠せなかった。

 憑き魔女を奪うという意味を、イデルグに分からないはずはない。

「知ってるとも…勿論、仕事の妨げにはせんさ。正妻に出来ないのは、百も承知だからな」

 問題になる点を、彼は軽くかわした。

 正妻に出来ない。

 その意味は、真理にも分かっている。

 憑き魔女である上に、早紀の身分は低いのだ。

「だがな…よく考えてみろ」

 イデルグは、アルコールの混じった魔気を吐く。

 真理の作る低い室温を、上げるかのように。

「あの特異な能力の娘が、誰の子も産まずに朽ち果てるのは…余りに惜しいだろう?」

 その温度を。

 再び真理は、確実に二度下げた。

 イデルグの言わんとしている意味を理解し、そして、それを言われるまで理解していなかった自分に対して、だ。

 特異な能力。

 その能力を、煙たがる者がいるのならば、欲しがる者もまた、いてもおかしくない。

「お前さんも気づいているだろう? あの能力で、お前さんは遠からず3rdに上がる。2ndも遠くない」

 1stまで上がると言わないのは、イデルグが簡単には譲らないという意味だろう。

「だがな…本当に、あの娘の能力を使いこなせば…極東エリアの蝕の話だけでは済まんぞ」

 言いたいことは、よく分かった。

 気に入らない魔族を、簡単に葬り去ることだって出来る。

 その力だけで、他の魔族を屈服させる脅しにもなるだろう。

 早紀の能力が、遺伝すれば──これからの魔族の中心になることも可能なのだ。

 地位の高い者との子であれば、尚更、その道は楽になる。

 貴沙の娘だから、つぶされたくないというのも、確かにイデルグにはあるだろう。

 しかし、早紀の能力を血筋として欲しいと言っているのもまた、事実なのだ。

 それを、あけっぴろげに真理に言ってしまうところが、またイデルグなのだろうが。

 どこから、何を考えるべきか。

 真理は、珍しく混乱していた。

 しかし、混乱は長くは続かない。

 ざわりと、嫌な気配が首筋を走ったのだ。