極東4th

「マジか…」

 早紀の存在を、声から認識するやいなや、イデルグの息子は目を見開いた。

 ようやく、焦点の合った瞳。

 そして。

「マジだ…こりゃ…すげえな」

 笑い出す、大きな口。

 おかしくてたまらないように、彼は身体をのけぞらせて笑う。

「なるほど…確かに、一筋縄じゃいかないぜ」

 早紀に近づきながらも、彼の笑いは止まらない。

 対する彼女は、どう反応したらいいのか分からなかった。

 一体、どんな風にイデルグは、彼女のことを言ったのか。

「だが…面白い…面白いぞ、お前」

 大きな手が。

 がしっと、早紀の手首を掴んだ。

 反射的に身を引こうとするが、掴まれた手はビクともしない。

「オレは、甲斐…お前は?」

 魔族にしては、好奇心に満ち溢れた強いまなざし。

 早紀が逃げたがっていることさえ、自分の欲望に正直過ぎて、気づいていないようだ。

「あ…」

 引き結んだ唇を、動揺したせいで開いてしまった。

 魔女ではなく、過去の早紀に戻ってしまう。

「あの…手…」

 離して。

 何とか、そこまで声に出来た。

「ん? ああ…いや、駄目だ。手を離したら、お前消えるだろ? 早く、名前を言え」

 だが、向こうはさっぱり譲歩しなかった。

 早紀の能力に対する衝撃が、彼に手を離させないのか。

 こうなったら、とにかく早く名前を名乗って、解放してもらうしかない。

「さ…早紀」

 空を切りそうになる唇で、ようやく名前を声にした。

「早紀か、了解…それじゃあ早紀…」

 名前を、視線に乗せる、というのだろうか。

 甲斐という男は、前よりも強いまなざしで彼女を見た。

 そして──こう言った。

「早紀…オレの子を産まないか?」