---
ど、どうしよう。
早紀は、鎧の側で固まったまま動けずにいた。
イデルグの息子と思われる男は、すぐ近くに迫っている。
彼女の存在に、気づかないままだ。
自分の能力を、疑っているわけではない。
子供の頃から、無意識に使ってきた能力だったし、蝕の戦場でもその力はいかんなく発揮されているようだ。
しかし、さすがに目の前に来れば、分かるのではないだろうか。
ましてや、彼は早紀の能力を知っているようだ。
知っているからこそ、強く意識をこらせば気づかれると思った。
零子も、タミも──イデルグも、「いる」と分かっているのならば、速さの差こそあれ、早紀を見つけたではないか。
は、離れよう。
ゆっくりそっと、ホールから出て行こう。
早紀が、そーっと動こうとした瞬間。
男は、ぴたっと動きを止めた。
まるで。
耳を澄ますみたいに。
早紀も、足をぴたっと止めた。
視線が。
イデルグの息子の視線が、軽く周囲に巡らされる。
気配はなくとも、空気が動くのは止められない。
足音だって、ほんのわずかくらい、生まれているのかもしれない。
あの父の血を、受け継いでいるのだ。
鋭くても、おかしくなかった。
動きを止めたおかげか、幸い見つけられなかったようだ。
しかし。
「いるのか? カシュメル卿の魔女」
堂々と呼びかけられて、更にどきっとする。
大胆で、効果的な方法だった。
早紀は、客人で。
もしこの呼びかけに応じず、自力で彼に見つけられてしまったら、スパイ容疑くらいかけられそうだ。
やましいことが、ないのならば。
「います…」
カシュメル卿とやらのために──答えておくべきだった。
ど、どうしよう。
早紀は、鎧の側で固まったまま動けずにいた。
イデルグの息子と思われる男は、すぐ近くに迫っている。
彼女の存在に、気づかないままだ。
自分の能力を、疑っているわけではない。
子供の頃から、無意識に使ってきた能力だったし、蝕の戦場でもその力はいかんなく発揮されているようだ。
しかし、さすがに目の前に来れば、分かるのではないだろうか。
ましてや、彼は早紀の能力を知っているようだ。
知っているからこそ、強く意識をこらせば気づかれると思った。
零子も、タミも──イデルグも、「いる」と分かっているのならば、速さの差こそあれ、早紀を見つけたではないか。
は、離れよう。
ゆっくりそっと、ホールから出て行こう。
早紀が、そーっと動こうとした瞬間。
男は、ぴたっと動きを止めた。
まるで。
耳を澄ますみたいに。
早紀も、足をぴたっと止めた。
視線が。
イデルグの息子の視線が、軽く周囲に巡らされる。
気配はなくとも、空気が動くのは止められない。
足音だって、ほんのわずかくらい、生まれているのかもしれない。
あの父の血を、受け継いでいるのだ。
鋭くても、おかしくなかった。
動きを止めたおかげか、幸い見つけられなかったようだ。
しかし。
「いるのか? カシュメル卿の魔女」
堂々と呼びかけられて、更にどきっとする。
大胆で、効果的な方法だった。
早紀は、客人で。
もしこの呼びかけに応じず、自力で彼に見つけられてしまったら、スパイ容疑くらいかけられそうだ。
やましいことが、ないのならば。
「います…」
カシュメル卿とやらのために──答えておくべきだった。


