極東4th

 晩餐後、すぐに帰る、という方向にはならなかった。

 イデルグは真理を連れ立って、話をするために別室へと向かってしまったのだ。

 ぽつん。

 残されたのは、早紀だ。

 勿論。

 イデルグは、使用人に彼女を他の部屋に案内するよう命じたのである。

 そして、二人は先に行ってしまった。

 ぽつん。

 使用人は、主の命令を遂行しなかった。

 いや、出来なかったのだ。

 何故なら、早紀の存在を一瞬で見失ってしまったからである。

 おかげで。

 彼女はまるで空気のような存在感で、手持ち無沙汰になってしまったのだ。

 まあ。

 ある意味、気楽だった。

 どこにいたとしても、どんな変な行動をしたとしても、誰もそれを認識できないということである。

 よその魔族の屋敷など、入ったことのない早紀は、ゆっくりと歩き出した。

 大きなホールを覗くと、黒い甲冑が飾ってあるのが見える。

 イデルグが身につけている本物かと、近づいて見てみたが、造型は全然違った。

 ただの飾りなのだろう。

 貴重な本物を、こんなところに置きっぱなしにしているはずがない。

 息子が二人、鎧の後継を狙っているのだから、なおさらだ。

 ふと。

 背後に気配を感じて、早紀はどきっとしながら振り返った。

 誰かが入ってきたのだ。

「ふぅ…」

 ため息混じりに、その人物は早紀の方へと近づいてくる。

 少年──というには、既に身体がきっちりと出来上がっている気がした。

 しかし、一目で分かった。

 イデルグの息子だと。

 彼の血を色濃く受け継いでいる、力強い肉体派だったのだ。

 双子の片割れだろう。

 目は、何も見てはいない。

 早紀の存在に、気づいていないのだ。

「見えない魔女って…ホントかよ」

 難しい顔をしながら、ぼそっと呟かれた言葉は──早紀の心臓を、強く跳ねさせたのだった。