極東4th

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 早紀の知らない、母親の話だった。

 元々、ほとんど知らない実母のことだ。

 彼女は、何を聞かれても「知りません」以外の答えを言うことはないと思っていた。

 しかし。

 宙空に現れた、自分の母親の若い姿に、正直驚いたのだ。

 今にも動き出しそうなほど生き生きと、貴沙という女性は自分を睨んでいたのだから。

 ほけーっと口が開きそうになって、慌てて引き結ぶ。

 零子のように、タミのように。

 静かな顔でおとなしくしていよう──そう思った。

 どうせ、早紀は全然似ていないのだ。

 すぐに、イデルグは彼女に興味を失うだろう。

「オレの子供を、産ませたかったんだがな」

 なのに。

 爆弾発言が投下され、早紀は目を見開いてしまった。

 産ませたかったという希望の言葉なので、彼は自分の父親ではない。

 すぐにそう理解したが、彼女の中ではいまだ謎なその部分に触れられたせいで、ひどい驚きになってしまった。

「ほう…なかなか、個性的な顔にもなるな」

 イデルグのコメントに、慌てて早紀は人形の顔に戻る。

「貴沙に子供を産ませた男は、一体誰だ? オレを袖にしたんだ…生半可な相手じゃあるまい」

 だが、おとなしく人形に戻してくれるはずがない。

 やはり、話がそっちへと運ばれていく。

 早紀は。

 真理を見た。

 答えていいかという問題以前に、答えようがなかったのだ。

「……言えない相手ですよ」

 真理の言葉には、あらゆる含みが込められている気がした。

 お話する理由はありません、という拒絶。

 それと──言うには、はばかられる相手です、という揶揄。

 はばかられる。

 それほどすごい相手という意味にも取れるし、それほどひどい相手とも取れる。

「なるほど…まさか、あのお方じゃないだろうな…はははははっ」

 自分の言葉に、傑作だとイデルグは大きく笑った。

 すごい方で解釈してしまったようだ。