極東4th

「よく来たな」

 イデルグという男が、風変わりであるということに──早紀は、すぐに気がついた。

 たとえ招待したとは言え、玄関まで彼らを迎えてくれたのだ。

 真理の斜め後ろにいた彼女は、その巨体を驚きとともに見上げた。

 正装程度では、決して隠すことの出来ない見事な肉体だ。

 海族とも、決してひけを取らない、肉体派の魔族。

 尖ったタテガミのような黒髪は、猛獣を想起させる。

 その高い位置の視線が。

 不自然なほど、一気に下げられる。

 真理を見る高さではない。

 もっと後ろの空間の、低いものを見ようとするかのようだ。

「本日はお招きいただき…」

 真理の挨拶も聞かない視線は、ついに止まった。

 早紀を、捕らえたのだ。

 さすがは、1stというべきだろうか。

 零子やタミとは違い、少しの間はあったものの、自力で彼女を見つけたのである。

「悪いな、カシュメル卿」

 ぽんっと。

 大きな手が、軽く真理の肩に置かれた。

 そんな挨拶でいいのだろうかと思ったが、自分の考えが根本から間違っていることを、早紀は知るのだ。

「今日の卿はダシだ…キサの娘だってな…この憑き魔女」

 イデルグの巨体は、信じられない身軽さで真理をかわすと、早紀の目の前に割り込んでくる。

 そして。

 キサ、と言った。

 貴沙──と、おそらく。

 見下ろす目に、害意は感じない。

 しかし、反射的に早紀は身構えてしまった。

 あの、ロクな遺産を残さなかった、諸悪の根源である実母の名前だったからだ。

 イデルグにも、何か恨みを買っているのか、と。

「全然似てないな…残念だ」

 まじまじと早紀の顔を覗き込みながら、心底残念そうにイデルグは言った。

 その表情を見た刹那。

 あっ。

 彼が、母に抱いていた感情が何なのか──分かった気がした。