極東4th

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 支度が終わった後、タミは魔女らしく振る舞う方法を、早紀に教え始めた。

 相手は、上位の魔族。

 そこで早紀が恥をかけば、その主である真理が恥をかくのだと。

「口は、意識をして閉じておく」

 無駄なことはしゃべるな。

 しゃべらない時は、唇をわずかも開けるな、と。

「何か話しかけられたら、勝手に答えずに主を見ること」

 答えていいことであれば、主は頷く。

 答えさせたくない場合は、主が自ら話を引き継ぐ。

 教える内容に、まったく澱みはなかった。

 タミもまた、そのように教えられたのだろうか。

 彼女にとっての主とは、自分の親に当たる人物になるかもだが。

 ただ。

 自分にしゃべりを任されるより、遥かにマシだった。

 魔族の上流階級での礼儀など、早紀が知るはずなどなかったのだから。

「もし、どうしても困ったことがあったら…」

 タミは、一瞬だけちらと視線を自分の右手に落とす。

「遠慮なく、消えてしまいなさい」

 失敗をするくらいなら、存在を消せと。

 そう言うのだ。

 確かに。

 存在を消してしまえば、相手は早紀に声をかけようとも思わないだろう。

 いっそ、最初から消えていたいほどだった。

 しかし、自分も一緒に招待されたということは、少なからず早紀に興味があるということだ。

 非常に迷惑な興味である。

 早紀は、行きたいわけではないのだから。

「唇を…閉じて」

 最後にもう一度そう言うと、ついにタミは真理の元へと彼女を連れて行こうとする。

 それには、イデルグ家に行くのとは比べ物にならない、勇気が必要だった。

 昨日の噛み傷は、タミがおそろしいほど綺麗にメイクで隠した。

 しかし、痛みはある。

 まだ確かに、昨日の事件を引きずっている。

 タミは、澱みなかった。

 真理の部屋に立ち、さっさとノックをする。

「タミです」

「入れ…」

 簡単なやり取りで、すぐにドアが──開いてしまった。