極東4th

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 夕刻。

 まだ出かける時間には少し早いが、真理は支度を終えていた。

 黒いシャープなスーツに、リボンタイ。

 代々受け継がれる、古代の覇者から下賜された、闇と同じ素材で出来たマント。

 髪もなでつけるように仕上げ、手袋の準備も出来ている。

 扉を見る。

 そろそろノックがあっても、しかるべきだと思っていたのだ。

 朝、タミに任せてからずっと、早紀の姿は見ていない。

 女の支度に興味などなかったし、タミならば立場的に、正装の意味をはき違えることはないだろうと思っていたのだ。

 扉を見る。

 自分の準備を終えてしまうと、何もすることなどない。

 扉を見──

 刹那。

 真理は、吸いかけた息を止めていた。

 整然としたノックが、来訪を伝えたからである。

「タミです」

 憑き魔女を連れてきた、という言葉と同意の呼びかけだった。

 ふぅ、と安堵する。

 魔女が、きちんと時間を守ることは少ない。

 そういう気がかりがあったための、安堵だろう。

「入れ…」

 自分の心を分析しつつ、真理は入室を促した。

 澱みない、いつものままのタミが入ってくる。

 その後ろから。

「………」

 真理は、ほんの2度──首を傾けていた。

 そして。

 3秒止まった。

 誰か、分からなかったのだ。

 頬を覆うように流れる短い黒髪が、輪郭を錯覚させる。

 しっかりと描かれた目元のメイクが、瞳をいつもより大きく感じさせる。

 ハイネックの黒いレースが、そのまま膝下まで流れ、やはり黒いレースの靴下で足元まで黒く染め上げていた。

 引き結ばれた赤い唇は、気軽に声を発しそうにない。

 そこにいたのは。

 いつもの早紀ではなく──魔女だった。