極東4th

 タミのこだわりは、半端ではなかった。

 出かけるのは、夜からだと聞いたのに。

 普段から、自分のスタイルにはポリシーがあるのだろうとは分かっていたが、早紀に服を貸すだけでは終わらなかったのだ。

 一度着せた服を、ひんむかれた後──髪を、切られた。

 ハサミを出された瞬間、喉にせり上がった感情を、早紀は言葉に出来なくて。

 母を、忘れないための髪だった。

 だが。

 もはや、誰にも義理立てをする必要などないのだと。

 そう思うと、ひどい葛藤が喉の中で渦巻いたのだ。

 しかし。

 髪を切るのもいいかもしれない──そう、観念してもいた。

 母への愛の感情は、決して消えてはいない。

 ただ、会うことはもう出来ないのだ。

 生きている事実だけを喜び、それをただ、愛に変えて行こうと思った。

 その踏ん切りとして、髪を切るというのはいいことに感じたのである。

 シャリッ。

 重苦しいおかっぱを、タミが削ぎ落としていく。

 頬から顎のフェイスラインに沿うように、髪が流される。

 前髪も。

 トップも。

 随分重かったのだと、足もとに散り落ちる髪の量でよく分かった。

 髪を切り終えるや、今度はバスルームに連れ込まれる。

 奇妙な形の薬の瓶が、山ほど並べられていて。

 バスタブに落とすもの、磨き上げるためのもの。

 むせかえる不思議な香りに包まれながら、早紀はタミに磨き上げられた。

 完璧主義者。

 まさに、その言葉がぴったりだ。

 魔力オタクだとは思っていたが、完璧主義者という素地がオタクを後押ししたのだろう。

 身分は、はるかに早紀よりいいはず。

 それでも、タミが自分に構うのは、早紀の持つ特殊な能力について知りたいからだろう。

 魔力オタクとして、完璧主義者として、プライドを犠牲にしても手に入れたいに違いない。

 プライドを犠牲にしても──その点が、タミのすごいところだと思った。

 目的のためなら、曲げられないものでも曲げてくる。

 少しだけ。

 好きだな、と思った。