極東4th

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 相手が女とはいえ。

 身体を見られるのは、決して平気なわけではない。

 しかも、相手はきちんとした姿をしているにも関わらず、自分はパンツ一枚の情けない姿だ。

 さっきから、早紀の身体を眺めては、クローゼットからドレスを引っ張り出し、投げ捨て、また引っ張り出しを繰り返す。

「あの…一体何が…」

 次の服を掴んで振り返ったタミは、それを彼女に押しつけるように突き出す。

「着て」

 有無も言わさぬ迫力に気圧されながら、早紀はそれを握らされていた。

「今夜…イデルグ家に招待されているの」

 服をいじっている彼女に、タミは続ける。

 はっと顔を上げたが、向こうは早紀の反応よりも、服を着る作業に視線を向けたまま。

 慌てて、早紀は服に頭と袖を通した。

 イデルグ──1stの鎧の人だ。

 真理の思考を通して、早紀にもわずかながらに他の鎧の主の知識がある。

 鎧を持っているのだから、カシュメル家と負けず劣らずの家系なのだろう。

 そこに。

 誰が、招待されたというのか。

 背中を長く走るファスナーに苦戦しながら、疑問を組み立てようとしていたが。

「あなたの主と…あなたがよ」

 背中に回ったタミが、ジャッと一気にファスナーを引き上げる。

『主』

 その表現に、どきっとした。

 この心にある、どうしても断ち切れない何かを、言葉にするとそういうものになるのだろうか。

 絶望し、死にかけたのはつい昨日のこと。

 しかし、その死の崖っぷちで、断ち切れないそれを見てしまった。

 そして。

 その『主』なるものと重なる瞬間を、渇望してしまったのだ。

 この感情は、鎧と一体化しているせいなのか。

 鎧の男の感情が、早紀の中に流れ出しているのだろうか。

 自分の感情に戸惑っている彼女を、タミがじっと見ている。

 視線に気づいて、引け腰になっていると。

 手袋の手が、伸ばされた。

「リボン…も、黒がいいわ」

 言われて、はっとしていた。

 いつも自然と髪に絡みついている、深い青のリボン。

 一瞬だけ、伊瀬が脳裏をかすめる。

 早紀は。

 青のリボンを──外していた。