極東4th

 かけるべき言葉。

 そんなことに、何故自分は尽力しているのか。

 その事実に、真理は眉を寄せた。

 気をつかうべき相手では、決してない。

 下僕相手に、探してまでかける言葉などありはしないのだ。

 だが、真理は打ちすえる力も、罵る怒りも発揮できないままだった。

 いっそこのまま。

 早紀を置き去りに、部屋を出て行ってしまいたかった。

 この場にいたくないとさえ、思い始めていたのだ。

 しかし、ここは自室で。

 早紀を追い出すべきだった。

『部屋に戻れ』

 それだけ言えば、事は足りる。

 足りるのだ。

 それなのに──唇は動かない。

 足も動かない。

 俺は…どうしたいのだ。

 真理の矛盾する心を、砕くものがあった。

 ノックだ。

 この、海水まみれの二人に、割って入ろうとするものがいる。

「タミです」

 その声に、どこか安堵する自分がいた。

「入れ」

 声が、出た。

 さっきまでが嘘のようにあっさりと、当たり前のように言葉を発していた。

 ドアを開けた彼女は、すぐに部屋の中に視線を走らせる。

 早紀を探しているのだろう。

 その視線が、水に濡れた床に注がれ──そして、ようやく見つけたようだった。

 微かに、表情を緩める。

 早紀が見つかったことを、喜んでいるのだろうか。

 彼女は、真理へと視線を動かす。

 そして。

「折檻されますか?」

 涼しい声で、上に立つ魔族らしいことを言い放ったのだった。